音楽業界は新規ビジネスを行わなくていいのか?

 

久しぶりの投稿になります。

 

今まで利用していたサーバーの更新ができなくなったためサーバーを移しブログもリニューアルすることになりました。バックアップを取っていなかったため、過去の投稿も一部だけ反映しています。あと前ブログの更新から1年以上空いてしまい申し訳ございません。現在グロービス経営大学院という学校に通い経営について体系的に学びスキルアップを目指しているのですが、2013年4月に入学し勉強が本格化し全然更新ができていませんでした。素晴らしい学びを得られ自分の成長につながっているのを実感していますが、きちんと整理し自分のものとして吸収するのも大変で正直ブログを書く余裕がありませんでした。今回はそんな日々の学びを自分なりに活かし、今の音楽業界に関しての考えを書いてみます。

 

音楽業界は新規ビジネスを行わなくていいのか?業界の最盛期であった90年代末と違って大きく環境が変化している以上「もちろん新規ビジネスを行うべき!」です。当然そのようにシフトしていくだろうと思っていたらあまりにも変化への対応が進んでおらず驚いています。なぜ変化への対応が遅いのか?音楽業界のあるべき姿とは何なのか?そしてそれらの前にこれまでがどうだったのかを改めて整理することで、あるべき姿に対しどれだけギャップがあるのかを特定したいと思います。

 

久しぶりということでもありますので業界の主な収益源であるCDの市場規模を見てみましょう。こちらは国内のCDの生産実績をベースにしています。

 

2013年 CD合計生産実績と成長率

 

2012年は音楽ソフト(オーディオレコードと音楽ソフトの合計)が14年ぶりの前年超えと話題になっていました。CDの合計で見てみると確かに224,631(百万円)、前年比7.7%の成長と14年間続いていた右肩下がりの傾向に減少傾向に底を打ったように見えます。ただしこの年はAKB48のミリオンヒット連発とジャニーズの好調なセールスに加え、大物アーティストのベストアルバムリリースが続いた一過性のものでした。2013年には-12.7%と大きく減少しています。おそらく2014年はさらに衰退していくと考えています。

 

それは現在のCD販売のビジネスモデルが変化に対応できず通用しなくなっているからです。ここで改めてそのビジネスモデルの構造を掘り下げてみます。

 

■音楽業界の特性とは何か?

90年代は音楽業界の成長期でした。CD販売のビジネスモデルはこの頃の環境に合致していたと言えます。音楽は生活必需品ではなく、無形であり、情緒的価値が重要なものです。人の嗜好によって評価は大きく分かれるものですが、何より感動と共感を得ることが必要になります。ここではマスマーケティングが有効でした。アーティスト自身の広告や音楽番組の出演だけでなく、ドラマやCMのタイアップなどとにかく露出量を増やし話題となり、ブームやトレンドを創ることで多くの共感や憧れを獲得してきました。広告の力で一気に売り切るだけでなく、ライブなどの音楽体験や楽曲に基づく顧客のエピソードなどから徐々に火がつき話題になる場合もあります。後者はPRへの綿密な下準備と長期的な視点が必要なので、デビュー前のアーティストや、低迷しているアーティストなどが採る戦略ですが、狙って成功させるのも難しい面があります。ブーム、トレンドの終了後は売り切るのが難しくなるため販売開始のタイミングをピークに持ってくるのが基本です。楽曲の制作費は高コストですが、CDは再販制度によって定価が守られていて価格競争はなく、原価は低く粗利が大きいのでハイリスク・ハイリターンと言えます。また参入障壁は高くなくメジャーからインディーズまで多くのプレイヤーが存在し競争は激しいです。差別化、話題性の創出には規模の大きさが有効でした。粗利の大きいCDを大量生産し、大量に露出させる広告の力で売り切ることで、原価と販間費の削減も実現させてきたのです。

 

音楽業界(CDビジネス)の特性

 

そして音楽業界の根本は権利ビジネスです。CDの収益が最も大きいのでこちらを中心に掘り下げていますが、音源、映像、広告収入、チケット、グッズ、その他コンテンツなど利益モデルは様々です。アーティストの楽曲・パフォーマンスのクオリティが下がる、アーティストへの共感が得られなくなる、といった飽きられたら終わりというリスクはもちろん存在しますが、アーティストの音楽体験を深め、顧客ロイヤリティの向上×顧客数の増加によって大きな収益が得られるため、権利を握っておくことは非常に重要になってきます。ただし1社ではバリューチェーン上の各リスクを抱えきれないため、レコード会社、小売店、事務所で生態系を築きリスクを分散しながらそれぞれ利益を得ています。

 

音楽業界のバリューチェーン

 

90年代の音楽業界(レコード会社)の成功要因は、質の良いアーティストを目利きし安定的に輩出しながら、広告・PRの力によって話題性・ブームを創出し、リスクを管理しながら売り切っていくことです。規模の大きさによって原価・販間費の単一コストを下げながら競合との差別化を実現していきます。これを継続的に行うことでアーティストのブランドを確立し顧客ロイヤリティを高めながら新規顧客を獲得することで、安定的な収益が得られるようになります。

 

 

■パラダイムシフト後はどこに市場機会があるのか?

このように90年代は音楽業界を取り巻く環境と企業の経営戦略が整合していたため大きく成長することができました。けれどテクノロジーの進化によって1999年から業界環境が大きく変化し始めます。この変化は非常にダイナミックで、テクノロジーの進化は様々な業界に影響を与えていますが、音楽業界が一番最初に大きな影響を受けたと言えるでしょう。既存のバリューチェーンに大きな影響を与え、CD販売のビジネスモデルを陳腐化させてしまいました。大きな環境変化によってこれまでの経営戦略と整合しなくなったのです。音楽とは元々無形のものです。CDという一つのパッケージだけでなく1999年のNTT docomoのiモードによる着メロ、その後の着うたによる音源として配信が始まり、コンテンツも多様化を見せ始めます。いつでもどこでも購入できるのは音源だけでなく、ECによってCDもそうなりました(配送というプロセスがあるので必ずしもすぐではありませんが)。音楽配信とEC、特にAmazonの日本市場進出は小売店との関係性に大きな影響を与えています。音楽配信は1曲から低価格で購入が可能な利便性を提供しています。希少性の訴求から購買促進へつなげていたDVDによる映像特典は価格再販制度の対象にはならず値引きが可能であり、ECではCD+DVDというパッケージは大幅な値引きが行われ価格競争を引き起こしました。さらには2005年のYouTube、2006年のニコニコ動画による音楽を映像として、不特定多数のユーザーとインタラクティブに、そして無料で楽しむことのできる視聴体験はこれまでの顧客ニーズを大きく変えることになります。フリーミアムモデルの浸透は価格競争以上のインパクトをもたらしました。さらに情報化社会への移行、情報洪水の時代ではメディアの影響力、企業と顧客の力関係にも変化をもたらしました。それにより単純なマスマーケティングによる大規模な話題性・ブームの創出が困難になりました。

 

テクノロジーの進化が既存のバリューチェーンに大きな影響を与える

 

テクノロジーによる大きな環境変化によってこれまでの経営戦略と整合しなくなった状況で、それでもなんとかCDの売上を上げようとして生まれたのがAKB商法と呼ばれるようなCD購入者の特典として握手会、サイン会などのイベント参加券をつける戦略です。元々握手会、サイン会はファンサービスの一環として行われていましたが、現在のように機会の多いものではありませんでした。新規顧客の獲得が以前より難しい中で売上高増加のためには顧客単価を上げるしかなく、CDの複数枚購入を促す手っ取り早い方法として認められると一気に増加、定番化しました。今ではアイドルに関わらず大小様々なアーティストで実施されています。ただし短期的な利益の追求には有効ではありますが、やりすぎれば顧客に対して搾取の構造を生み出しアーティストのブランドを傷つけるリスクもあります。そもそもCDへのニーズと握手会・サイン会へのニーズは異なるものです。顧客ニーズが変化しビジネスモデルが陳腐化しているにも関わらず、握手会・サイン会に対するニーズによってCDを販売する戦略は整合性に欠けています。営業で色々とお店を回りお話を聞く機会はありますが、この戦略の限界を感じることが多いです。一人の顧客にCDの複数毎購入を促す戦略しか持てなければ、長期的に収益性を行く維持していくことは困難だと考えています。

 

ところで2013年の世界の音楽市場は15,029.5(百万ドル)で、日本は3,012(百万ドル)と約20%、第2位のシェアを持っています。他国がデジタルでの成長を徐々に見せ始めている中で、日本は前年比-16.7%と大幅に減少しています。冒頭で述べましたが主な収益源であるCDの売上高減少が原因です。そして第2位のシェアを持つ日本市場の減少のインパクトが世界市場のマイナス成長へとつながっています。

 

ここまでを振り返ると、以前は業界の置かれている環境と経営戦略が整合していたため大きく成長することができました。現在は環境が大きく変わり経営戦略と整合しなくなりビジネスモデルも陳腐化しました。そんな状況でもCDを売ろうとCDとは違うニーズを付加価値として提供するものの、完全に付加価値がそもそものCDという提供価値を上回りいびつな構造を生んでいます。長期的な音楽業界の成長を考えるのなら、まだCDの収益が大きい今のうちに新たな収益源となるビジネスモデルを構築することが課題です。CDの生産から32年が経ちますが、音楽業界はこれまで大きな変化がなく突然のパラダイムシフトを迎えました。90年代の成長期の成功体験が大きいとはいえ、環境が変化している以上新たな経営戦略を構築できなければ衰退を止めることはできないでしょう。

 

ではパラダイムシフト後のどこに市場機会があるのか?という疑問が出てくるのではないかと思います。一概には言えませんが、まず業界の構造がどう変わったのか、顧客のニーズがどのように変化したのかを押さえる必要があります。業界の構造の変化は上の「テクノロジーの進化が既存のバリューチェーンに大きな影響を与える」の図でまとめてみました。顧客ニーズの変化については以前にもこのブログで取り上げましたが、「所有から共有へ」、「憧れだけでなく、親近感」、「ネットとリアルでつながること」、「参加性」などが重要であると考えています。市場機会は顕在化しているわけではなく、業界特性を踏まえこれらのニーズを喚起し新たな市場を作っていく必要があります。具体的には次回で書きたいと思います。僕自身もまだ考えがまとまっていない部分もあり、すぐの更新は難しいかもしれませんが…笑

 

あと考えとしてあるのが、おそらく業界内から大胆な戦略の模索、構築は難しいのではないかと考えています。国内の上場企業は事業の多角化や海外への市場開拓のため新たに投資を行っていますが、業界全体としては新規ビジネスのための新たな組織の構築、運用がこれまでの資産に縛られ進んでいないのが現状だからです。僕はこの状況に非常に危機感を持っています。業界の成長のためには今後デジタルへの投資、戦略構築は必須です。また自分自身の将来を考えると、音楽業界への参入を考えている、またはコンテンツビジネスを強化しようとしているIT企業様で働きたいと考えています。音楽業界での経験×経営学の学びによってバリューを提供していきたいです。そのような企業様がいらっしゃいましたら是非ともfacebook等でお声がけ下さい。よろしくお願いします。

 

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「音楽の明日を鳴らす~ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代~」から見える音楽業界が本当に考えるべきこと

 

大変遅くなりましたが先日トライバルメディアハウスの高野修平さんから著書である「音楽の明日を鳴らす~ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代~」を献本して頂きました。

 

明日の音楽を鳴らす~ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネス~

 

書評というにはおこがましいのですが最後まで読んで、これからの音楽業界を考える上で大切なことが分かりやすく体系的に書かれており、肌感覚だけで感じていたようなことも理論的に理解できる内容だと感じました。そして音楽を日常の国にするという、高野さんの音楽に対する愛情や想いが伝わってきて、業界に身を置く人間として問題解決に取り組んでいかねばという刺激を受けました。音楽業界に携わる方々、アーティスト自身、音楽好きなユーザー、音楽だけでなくコンテンツビジネスに携わる方々など、多くの方に読んで頂きたい本です。「音楽の明日を鳴らす~ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代~」は多くのメディア、ブロガーの方たちに紹介されているので細かい解説は省かせて頂きます。そして本書を読み終えて得られた僕なりの解釈を書かせて頂きます。

遅くなってしまい申し訳ないですm(__)m

 

 

これからの音楽業界が本当に考えるべきこと

 

それは一言でいうと顧客志向、ユーザーの視点に立ったビジネスをする必要があるということです。前々から感じていたことではありますがこの本を読んでより強く思うようになりました。音楽はやはり受け手の存在があってこそ成り立つものだと思います。特にビジネスとして考えるのならば今後ユーザーの視点に立つことは絶対に必要です。読み進めていく中で僕が重要だと思ったところをピックアップし本書からの引用を交えつつ、なぜユーザーの視点に立つことが大切なのか?を書いてみます。

 

 

【音楽業界の未来を考えるなら危機感を持つべき】

第1章の音楽ビジネスの「いままで」と「これから」では、業界を取り巻く環境が大きく変わり市場に大きな影響を与え、音楽の楽しみ方・価値観が変化していることが分かります。『フリー化していくコンテンツビジネス』の項にあるように価格だけでなく音楽を届ける方法も変化しどう対応すべきなのかが問われています。そして重要なのが『音楽は囲い込めない』の項にある以下の文章です。

 

 

本書から引用

 

 

コンテンツがフリー化していても違法ダウンロードは誤った音楽の消費の仕方でありもちろんすべきではありません。動画サイトはインターネットユーザーの過半数以上が利用するインフラのようなものです。YouTubeにない時点でその音楽はないに等しいと判断されるくらいニーズは変化しています。業界関係者から時々「フルで公開してしまったらその音楽は買ってもらえなくなる」という言葉を聞くことがあります。無料でフル配信したら本当に売れなくなるのか?逆にそうしなければ本当に買ってもらえるようになるのか?『音楽は「所有」から【共有】へ』にあるように、音楽を所有することではなく音楽を通じて一緒に盛り上がれること、共感できることに価値を感じるようになりました。だからこそYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトの成長があります。このニーズの変化を無視してCDや音源を売りたいと思っても当然受け入れられはしません。ニーズに対応せず乖離した状態を続けていれば業界は縮小し続けます。また2010年からメジャーデビューするアーティストも大きく減少しています。利益を上げられなければ当然新たなアーティストへの投資も難しくなります。そんな状態が続きメジャーデビューしたいと思うアーティストも減ってきたらこれからの音楽業界はどうなるのでしょうか?業界の未来を考えるならもっと危機感を持ち問題解決に取り組む必要があります。

 

 

【フラットな立場でユーザーと向き合い、価値を伝える】

第2章のソーシャルメディア概論ではソーシャルメディアとは何か?ソーシャルメディアマーケティングとは何か?両者の違いを明確にした上で、情報化社会の現在では何を「目的」としその達成のためにユーザーとどうコミュニケーションを取るべきなのかを丁寧に解説されています。僕はここをしっかりと理解することが一番大切なのではないかと思います。製造業だけでなく音楽も良いモノを作れば売れる、メディアで露出すればするほど売れるという時代は終わりました。上から目線、一方的なコミュニケーションでは共感されないことは今の業界の状況を見れば明らかです。

 

本書ではソーシャルメディア、ソーシャルメディアマーケティングは以下のように定義されています。

 

 

  • ソーシャルメディアとは「生活者による生活者のための生活者の場」

 

 

  • ソーシャルメディアマーケティングは生活者が「主役の場」でアーティストやレコード会社などが「マーケティングさせて頂く場」

 

 

あくまでも生活者が主役でありオープンでフラット(平等)な場所です。そしてここには作法があり、これまでのマーケティングをそのまま行うべきではないと訴えられています。『生活者とのエンゲージメントを作るソーシャルメディア』の項の、公園でくつろぐ夫婦に対しいきなり営業を行うたこ焼き屋のシーンが良い例です。

 

またマーケティングとはなんでしょうか?一言でいえば「売れる仕組みを作る」、「人に対して購買決定・購買行動への刺激を創ること」です。色々なフレームワークがありますが重要なのは顧客のことを考えることです。以前ならメディアも情報量も限られており一方的に情報を発信しても受け取ってもらうことが可能でした。ですが情報化社会の現在では膨大な情報が溢れており共感される情報こそ価値があり信頼されます。逆にいえば共感されない情報に価値はないわけです。一番共感・信頼される情報とは友人・知人のクチコミです。そして人と人がつながりそのクチコミまでもが可視化されコミュニケーションのインフラとなっているのがソーシャルメディアです。そんな生活者が中心の場で「初めまして、俺、最高です!」のようなゴリゴリのプッシュ型のコミュニケーションが通じるわけはないですよね。

 

『生活者の生の声に耳を傾ける』の項にあるようにソーシャルメディアには生活者が感じたことをそのまま発信している生の声があります。時には辛辣な言葉を投げかけられることもあるかもしれない。けれどそこで情報を都合のいいようにコントロールしようとするのではなく、本書にあるようにどうソーシャルメディアに向き合っていくのかが大事です。傷つくような厳しい言葉には、いま何が問題になっているのか、問題の解決には何をすべきなのか、リアルの場でのクレームがそうであるように改善のためのヒントがあるかもしれません。ソーシャルメディアに向き合うことは顧客に向き合うことだと教えてくれています。本当にアーティスト・音楽の価値を伝えのなら、一方通行に言いたいことを言うのではなくオープンな姿勢で、上から目線ではなくフラットな立場でユーザーと同じ視点を持ってコミュニケーションを行わなければなりません。

 

 

【ユーザーが存在しなければブランドは作れない】

現在はユーザーのニーズに応え同じ視点でコミュニケーションができているとは言えない状況です。これからは音楽業界もWin-Winの関係を作ることが必要になります。コンテンツがフリー化してきているとは言っても、共感してくれたからそのコンテンツをシェア(共有)してもらえ、価値を感じたからファンになってもらえたから購入してもらえるはずです。ユーザーはただの消費者でなく「人間」であり様々な感情や欲求を持っています。結局は、「人対人」なのです。ただ良いものをつくればいい、とりあえず情報を流しておけばいいでは誰にも何も伝わらない。どうすればその音楽の良さ・価値を伝えることができるのか、それは3章以降の【共有】・【共感】・【共鳴】をテーマに書かれています。こちらを読んで頂ければその概念と仕組みを理解できると思います。

 

そもそも音楽の価値とはなんでしょうか?用途や利便性などが明確な製品とは違い、無形であり感情に訴え情緒的な価値を求められる音楽の価値を定義するのは難しいものがあります。主観的なことを言わせて頂ければ、音楽は自分たちを楽しませ興奮と感動を与えてくれるもの。そして寂しく辛いような時には癒し慰めてくれたり前へ進む力を与えてくれるもの。アーティストにとっては自分の想い・感じていることを伝えたり、聴く人に楽しんでもらいたいという欲求を満たすための自己表現・自己実現の手段なのかなと思います。そして共感によって両者がつながっていくのではないでしょうか。

 

だから楽曲のクオリティも当然大事ですが、この趣味趣向が多様化しそれに見合ったコンテンツが細分化し生まれ24時間を奪い合っている現在ではアーティストのブランドを作っていくことが極めて重要になります。どんな人格(パーソナリティー・キャラクター)を持ったアーティストがどんな価値観・想いを持って音楽を届けているのか、ユーザーに認知してもらい深く理解してもらう必要があります。結局「人対 人」なのですから、友人・知人からの情報が共感されるようにアーティスト自身がユーザーとそのような関係性を丁寧に作っていかなければなりません。ニッチ市場が増加しているコンテンツビジネスで収益化を考えるなら必須です。

 

本書では共感を生み出す『クワトログラフ』というフレームワークを紹介されています。クワトログラフは以下の4つのグラフから成り立っており、それぞれの切り口からつながりを生み補完し合い一貫性のあるストーリーを設計するためのフレームワークです。

 

クアトログラフ

大切なのはアーティストのどんなブランドを作りたいのか?そのためにこのクワトログラフを活用し、何を伝えたいのかを明確にすることです。そして誰にどう伝えどれだけ共感してもらえたら目的の達成になるのか考えなければいけません。その戦略として本書のテーマである【共有】・【共感】・【共鳴】のサイクルを創ることを高野さんは訴えられています。事例も豊富にありますので詳しくは是非本書を読んでみて下さい。

 

アーティストのブランドを作ることができれば、コラボレーション・拡張のしやすさという音楽の特性からビジネスの多角化の可能性も広がります。収益化、アーティストに対価を還元するためにはブランディングは絶対必要ですが、それもユーザーが存在するからこそ成り立つものだということ当たり前のことを忘れてはいけないですよね。

 

 

いかがでしたでしょうか?高野さんの意図するところとは違う点もあるかとは思いますが、「音楽の明日を鳴らす~ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代~」を読んで改めて顧客志向、ユーザーの視点に立ってビジネスをすることの重要性を感じました。音楽業界は長らく変化のなかった業界です。業界の構造、慣習など独特のものもあると思います。ですが大切なのは変化に対応していくことですよね。音楽業界は今どのような状況に置かれどんな問題が存在しているのか、本質的な問題の解決として何をすべきなのか、本書から多くの刺激を受けました。僕もどんなビジネスモデルを構築すればアーティスト、ユーザー、そこに携わる人たちがハッピーになれるのかを考え、形にできるようにもっと取り組んで行こうと思います。

 

 

最後に

高野修平さんの2冊目の著書、正確には共著ですがソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略“音楽人”が切り拓く新世紀音楽ビジネスも発売されています。合わせて本日11/8(木)にイベントも行われるようなので興味のある方はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。

 

『sensor ~ it&music community』powered by happydragon

Vol.5『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略〜“音楽人”が切り拓く新世紀音楽ビジネス』

ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略 “音楽人”が切り拓く新世紀音楽ビジネス

 

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DrillSpin様に寄稿させて頂きました!

 

今回はいつもと違う形ですが、DrillSpin様のコラムに寄稿させて頂きました。

 

寄稿自体はこれで2回目です。音楽業界には新たなエコシステムが必要というタイトルで前回の音楽業界が迎えるパラダイムシフトを踏まえた上で、「アーティストが音楽活動だけで十分な収入が得られない」という最も解決すべき問題について考察しています。新たなパラダイムを迎え変化を求められている音楽業界はどうすべきなのか、少しでも参考になれれば嬉しいです。

 

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音楽業界が迎えるパラダイムシフト

 

今回は音楽業界の現状を分析し3つの変化から新たなパラダイムを迎えており、新しいビジネスモデルが必要である事を明らかにします。そしてその上で押さえるべき重要ことは何か、今後どうしていくべきか考えてみたいと思います。

 

市場規模の変化をみる

 

下のグラフは2011年までの音楽ソフト生産実績の推移を表したものです。

 

音楽ソフト生産実績の推移(2011年)

 

・音楽ソフトは、オーディオレコードと音楽ビデオの合計

・オーディオレコードは、CDシングル・アルバム・アナログディスク・カセットテープその他の合計

・音楽ビデオは、DVD・Blu-ray・テープ・その他の合計

 

権利ビジネス・デジタル配信を除いたCDやDVD・Blu-rayといったパッケージでの総合計が音楽ソフトになります。グラフを見ると2011年の生産実績は281,850百万円。前年比は99%と微減ですが依然として減少し続けています。

 

次にオーディオレコードの内、CDの合計生産金額の推移を見てみます。

 

CD合計生産金額の推移(2011年)

 

CDの合計は208,501百万円で前年比は94%とこちらも減少し続けています。内訳をみるとシングルが前年比116%と成長しているのに対し、アルバムが前年比89%と大きく減少しています。シングルは昨年のAKB48の5作連続ミリオンヒットという90年代にもなかった驚異的な売上が貢献しています。CD全体だけで見るとそれほど減少していないように思えますが、シングルの成長はAKB48やK-POPの貢献が大きく、今後も同じ規模で継続していくものとは考えられません。一時的なものだと考えるべきです。それよりもアルバムの大きな減少の方が深刻です。

 

次に音楽ビデオの生産実績の推移を見てみます

音楽ビデオ生産実績の推移(2011年)

 

2010年にはそれまでの成長傾向が止まり大きく減少しましたが、2011年には急上昇しています。これはDVDの成長が回復したこともありますが、それ以上にBlu-rayの成長が大きいです。2011年は地上デジタル放送の完全移行により薄型テレビの駆け込み需要がありました。それに伴いBlu-rayのHDDレコーダーの買い替え需要もあり、アーティストのライブ映像はDVDだけでなくBlu-rayでも販売され始めました。そのような要因からBlu-rayの大きな成長がありました。今年2012年1月は前年比47%と大きく落ち込みましたが、2月は前年比127%、3月は前年比128%と再び上昇しています。

 

ここまで音楽ソフトの生産実績、CD合計生産金額、音楽ビデオの生産実績それぞれの推移を見てきました。こうして見てみると音楽ソフトというパッケージの規模は前年比99%と減少は少ないように思えますが、それを支えているのはシングルの異常な売上と映像ソフトのトレンドによるものです。これが持続的に続くものなら市場規模の縮小に歯止めがかかるかもしれませんが楽観はできないでしょう。

 

それでは次に音楽配信の売上実績の推移を見てみます。

 

有料音楽配信売上実績の推移(2011年)

 

2009年をピークに大きく減少してきており、2011年の売上高は71,961百万円。前年比84%です。CDに代わる新たな収益源として期待を持たれていた音楽配信ですがアルバムより若干大きな落ち幅です。これはやはりスマートフォンへの移行が原因でしょう。2011年はガラケー(フィーチャーフォン)からスマートフォンへの乗り換えが大きく広がりましたが、ガラケーで購入した着うたフルなどの音源がスマートフォンに引き継げず再度購入しなければならないという問題がありました。これに対応するためレコチョクではAndroid向けに2012年1月から着うたフルで購入した音源を無料でスマートフォンにダウンロードできる「おあずかりサービス」を開始しましたが対応は遅く、これまで利用していたユーザーが離れてしまい損失につながったと言えるでしょう。ただスマートフォンはYouTubeやニコニコ動画といった動画配信サイトがガラケーより利用しやすくなりました。このブログで何度も述べていますが、音楽の楽しみ方の変化も影響しているでしょう。

 

さてここで見て頂きたい図があります。

 

プロダクトライフサイクル

 

S字曲線で表されたこの図はプロダクトライフサイクルと言います。横軸に時間、縦軸に売上高や業界規模を用いて、ある製品が市場に投入されてからの成長や需要の変化を示したフレームワークです。このプロダクトライフサイクルは「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」という4つのステージを経てサイクルの変化を可視化するものです。市場全体に対する売上・規模の比率によって顧客のタイプは以下の5つに分けられます。

 

イノベーター 2.5%革新者:リスクを恐れず自身の技術的な知識・嗜好に基づいて購買を行う

アーリー・アダプター 13.5%新しいもの好き:流行に敏感で自らも情報集を行う

アーリー・マジョリティ 34% 初期大衆:新しい技術や商品の購買には比較的慎重

レイト・マジョリティ 34%後期大衆:アーリー・ジョリティよりさらに慎重で、懐疑的

ラッガード 16%遅滞者:非常に保守的。流行に流されない

※需要が加速しブームになるといわれるキャズムの壁は16%

 

ここから何が言いたいのかというと、CD販売ビジネスは最盛期の約1/3の規模となりすでに衰退期に入っている。そして音楽配信も衰退期に入り始めたという事です。定量的にみるとこのような事実が読み取れます。

 

 

ライブ動員数の変化をみる

 

こちらのグラフはライブ・コンサートの年間動員数の推移を表したものです。

コンサート年間動員数の推移(2011年)

 

最新のデータが2010年のものなので、昨年の震災によるライブの自粛などの影響がどの程度あったかは分かりませんが、2010年は2,618万人を動員。前年比は100.4%と微増で引き続き増加傾向にあります。ここから言える事は音楽業界は縮小していても、音楽離れは起きていないという事です。これは音楽を含めテクノロジーの進化で手軽に購入されるようになったコンテンツ業界で音楽をビジネスに闘っていく上で重要な事です。

 

 

ニコニコ動画から音楽の楽しみ方の変化をみる

 

2006年12月にサービスを開始したニコニコ動画。初期は著作権侵害で深刻な問題を抱えていましたが、VOCALOIDの初音ミクをきっかけにユーザー数は急成長を続け、現在は総登録会員数は2,600万人を突破し、有料のプレミアム会員は4/26の時点で162万人となっています。ユーザーは若年層を中心に拡大し続けており、20代総人口の約85%がニコニコ動画会員という驚異的な普を持つまでになりました。会員の内訳は20代が43.5%と最も多く占めています。(参考:急拡大中のメガ共感型メディア“ニコニコ動画”とは日経エンタテインメント!) このような背景には、この世代は幼い頃からメールを始めとしたインターネットによるコミュニケーションに慣れ親しんでいるおり、ニコニコ動画のインターフェイス・コミュニケーションが、他の世代とは比較にならないほど受け入れられているためだそうです。ニコニコ動画の成長の理由はこのコミュニケーションにあります。音楽も動画として楽しまれる傾向が強くなってきましたが、ニコニコ動画は動画を配信するだけではなく、動画の上を字幕のように右から左に流れるユーザーコメントによるコミュニケーションが特徴的です。みんなでツッコミを入れたり一緒に盛り上がったりする事で強い共感や一体感を感じる事ができ、高い熱量を生みだしてきた事で多くのユーザーの参加を獲得しています。またWEBだけでなく昨年7月にオープンしたライブハウスのニコファーレやニコニコ超会議といったリアルでのイベント体験も成功要因の一つです。

 

ユーザーが投稿した作品や運営・企業側が制作した番組につけられたコメントはそのコンテンツの一部となり、共感や一体感を生み出していくのに重要な要素になっています。これはアーティストが来てくれたお客さんと一緒に盛り上がり、一体感を感じられる高い熱量を持ったライブを作っていく事と同じです。このようにニコニコ動画の成長から、音楽はリアルでもWEB上でもコミュニケーションの一つとして楽しまれている事が分かります。もちろん一人で音楽を聴いて感動したり楽しむ事もありますが、同時にその感動・楽曲の良さを伝えたい、共感してもらいたいという想いもあると思います。音楽だけの話ではありませんが、ソーシャルメディアはそれを容易に行えるようにし共有という文化を生みました。共感を得て、自ら参加する事で、“体験を共有する”事ができます。ニ次使用によるコンテンツの創作だけでなく「いいね!」や「RT」といったシェア、キュレーションもひとつのコンテンの創作であり、体験の共有になるのです。音楽は所有する事ではなく、この体験の共有へと楽しみ方が変化しているのです。

 

 

変化に合わせたビジネスモデルを作らなければならない

 

以上の3つの変化から音楽業界がこれまでの構造とは大きく異なり、新たなパラダイムへと変化している事が分かります。これからのために新たなビジネスモデルの構築が課題です。所有ではなく体験の共有へと楽しみ方が変化している中で、CD・ダウンロード販売をいくらプッシュしても売上の増加につなげることが難しいのは当然です。CDはグッズと同じポジションへと変化し、購入するのは所有したいと思う熱心なファンになります。次に新たなビジネスモデル構築の際に重要な3つのポイントを挙げてみます。

 

【共感を得ること】

まずソーシャルメディアによって情報の流通が大きく変化した事を認識する事です。ソーシャルメディアによる双方向的な情報の発信、コミュニケーションによって個人が影響力を持つことが可能になり、誰からの情報が信頼されるのか、どんな情報が共感を呼ぶのか変化しました。以前のように影響力あるメディアから一方的に大量の情報を露出すればするだけ売上が上がっていた時代ではありません。共感がなければ情報はスルーされ、マスだけを考えた一方的な情報発信では共感を呼ぶ事ができず、アーティストのブランドを作る事は非常に困難です。マーケティングとソーシャルメディアをどう活用するのか考える際に、共感を得ることが大事なポイントになってきています。

 

 

【コンテンツを解放すること】

そして体験の共有というニーズを摑まなければなりません。ここで重要なのは“コンテンツを解放する”という事です。共有・シェアをするという文化はリアルの場でもシェアハウス、コワーキングスペースというように広がりを見せ、WEB上でもリアルでも新しいライフスタイルとしてさらに浸透していくでしょう。そして共有・シェアは“コラボレーション”を起こします。この時に権利でガチガチに縛っていたら、共感によってその場所に集まる人たちの好意・感動・リスペクトといった想いから生まれるコラボレーションを殺してしまいます。難しいスキルや高いコストを必要とせずに情報の共有が可能で個人が影響力を持つソーシャルの時代に、コラボレーションを阻害するメリットはありません。むしろコラボレーションによって一緒にアーティストのブランドを作っていくべきです。コラボレーションから生まれたコンテンツが共感される事で新たなファンの獲得につながっていきます。コラボレーションだけでなくシェアやキュレーションなどによって、その場に参加する事で帰属意識が生まれ自分ごと化される。そして一緒にアーティストのブランドを作り、ファンもブランドも一緒に成長していくのです。規模はマスメディア全盛の時代ほどではなくても、一緒に成長してきたコアファンに支えられたブランド、コミュニティならば充分に活動できるだけのマネタイズの方法も考えられるではないでしょうか。

 

 

【リアルと融合すること】

WEBだけで、ライブなどリアルの場だけで完結するのではなく、両者を紐付け融合させること。つまりはO2O(オフライン to オンライン)です。ソーシャルメディア上でライブ前に対する期待で盛り上がったり、要望などを募ったり。実際のライブでユーザーの声を反映したり、生配信を行いユーザーもそこに参加したり、現場の熱気をテキスト、写真、動画でも発信したり。ライブが終わったあとの感動をまたソーシャルメディア上で伝えあったり、そこにはライブの写真やアーカイブでの配信があったり、また次への期待が高まったりなどが現在の状態かと思います。今後はリアルの場でテクノロジーの活用が重要になると考えられます。リアルの場に参加する事でしか得られない体験が新たな価値となります。例えばPerfumeの「Perfume実写AR付きイヤホンジャック・アクセサリー」。先に実施されたPerfumeツアーパンフレットでは1つのコードで誰もが楽しめてしまいましたが、イヤホンジャック・アクセサリーは本人しか使用できないアクセスコード認証付きのARコードなので、その場にいた人だけが楽しめる設計になっています。他に位置情報ではFoursquareの「Foursquare for Music」。チェックインする事でそのイベントやアーティストに関連したインセンティブが受けられます。jay kogamiさんのこちらのエントリーに詳しい解説があります。あとフェスなどで感じるのはアーティストの転換の合間の時間の活用です。転換の時に違う会場に移動したり、トイレ、食事やグッズを買うために並んだり、休憩したり、友達と喋っていたりと様々な時間の使い方があると思います。こういうちょっとした隙間時間にもフェスの熱量を持続させるような取り組みができそうな気がします。このように参加への意欲を促し、ソーシャルメディア上で発信された体験が共感を呼び、またリアルへの参加を促していく。こういった良いサイクルを起こす事が重要です。

 

 

今後どうすべきか

 

これらの3つのポイントを押さえた上でビジネスを行っていかなければ、新たなパラダイムを迎えた音楽業界で事業を成長させるのは困難です。特にレコード会社はアーティストの権利収入からの、いわゆる360°ビジネスや、音楽以外の事業の多角化を行っているところもありますが、成功体験から脱却しこれらの変化をきちんと認識しないと衰退し続けるだけでしょう。

 

そんな中でもユニバーサルミュージックは変化に対応した新たな取り組みを開始しました。

UNIVERSAL MUSIC UJ AUDITION

 

UNIVERSAL MUSIC UJ AUDITION

スマホからオーディションにエントリーするのですが、従来のオーディションとは違いクリエイターがユニバーサルミュージックに所属するアーティストに楽曲提供やプロデュースや、今後は応募者同士のコラボレーションの企画も考えられているそうです。この辺りはさすが定額制音楽配信に対しても理解があり時代の変化を感じ取っているユニバーサルミュージックだなぁと思います。

 

また日本からも変化を意識した音楽サービスが生まれてきています。同じ曲を違う時間に聴き非同期型でコミュニケーションを楽しむBeatrobo

Beatrobo

 

Beatroboとは逆にリアルタイムで同じ曲を聴いてコミュニケーションを楽しむPicotube。こちらはリアルでのイベントも   定期的に行っています。

Picotube

 

Mashroom.fmはYouTubeの動画を最大6つまで再生でき、再生した動画に合わせて自分も演奏しバーチャルセッションができるサービスです。自分のパート以外の曲を再生して練習するのはもちろん6つの音源を自分で演奏することもできます。リアルタイムではない非同期のサービスですが、時間と距離を超えてセッションができるのでバンド内での練習や、新たなメンバー募集の際になどコラボレーションにも活用できそうです。

 

mashroom.fm

 

また5/1にはニコニコ動画が新バージョン「Zero」を実装し様々な新サービス・新機能を開始しました。その中でも音楽ダウンロードの「NicoSound」が注目です。これはユーザーが作った動画の音声部分のみを無料でダウンロードできるサービスです。Zeroバージョンに変更し制作したユーザーが許可した動画に限りダウンロードが可能でPC、Androidで使用できます。今後は有料配信も可能になるようで、そうなるとユーザー同士で音楽コンテンツの販売、購入が可能になり、共感とコラボレーションで成長したユーザー、コミュニティが利益を還元できる仕組みが整います。ニコニコ動画にはリアルイベントの強みもあり、今後のグローバル展開により海外ユーザーともコミュニケーション、コラボレーションが起こりユーザー、コミュニティが成長していけばそれは大きな市場機会になります。

 

ニコニコ動画はソーシャル時代における重要なポイントを押さえ大きな文化と生態系を形成しています。今後も音楽業界に与えるインパクトは大きくその動向は見過ごせないですね。ただ2ちゃんねる的なノリを苦手な人もいるので、ニコニコ動画によって拡大する文化、市場を追いつつニコニコ動画にはできないサービスを提供する事もできるはずです。上記のソーシャル時代で重要な3つのポイント全てを押さえずどれかに特化したり、特化しながら他のサービスと提携したり差別化して共生できるのではないでしょうか。ただし市場の変化で見たプロダクトライフサイクルで成長期にもって行くために、ニーズの変化と市場を取り巻く環境の変化を分析しスピード感を持って取り組まなければならない時代です。今後もiTunes Matchが日本でも本格的に利用可能になれば音楽業界はどうなるでしょうか?SONY のMusic Unlimitedの日本参入もありえるし、そうなってくるとSpotifyの参入障壁も下がると思います。

 

今年2012年はCDが生産されてからちょうど30年だそうです。30年間大きな変化がなかった業界も珍しいのではないでしょうか。これからの時代に音楽はどんな価値が求められるのか、引き続き新たな音楽ビジネスを考えてみたいと思います。コメントや感想はもちろんですが、僕で協力できる事などあればどんどん関わっていきたいと思っているので、お声掛け頂けたら嬉しいです。

 

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アーティストアプリはコアファン育成に有効なビジネスモデル

 

今回はブランディングとメジャーアーティスト向けですが、新たなビジネスモデルについて書いてみます。

アーティストのブランディングを行うという事は簡単に言うと、好意を持ちファンになってもらい、さらに熱心なファンになってもらうようにする事。そのためには誰に、そのアーティストのどんな魅力を伝えたいのか、ターゲットとアーティストのポジションを確立する事。そしてファンになってもらうためにその魅力をどう伝えて行くべきか、コミュニケーションを行う事。コミュニケーションと言っても、マスもソーシャルもメディアは細分化すれば様々で多くの役割と手法(サービス)があります。それらを活用し認知からどうやって好意を形成していくかが前回からの課題です。まず魅力を伝える=コミュニケーションを行うには上記のようにアーティストのコンセプトは何か?立ち位置を明確にする事が必要であり、どんなアーティストになりたいのか?ビジョンを持つ事も必要です。それは自分たちの強みが何かを理解し、他のアーティストと差別化し埋もれてしまわないようにするためでもあります。そして明確なコンセプトとビジョンを持った上でアーティストの魅力を伝えて行く。そのためには“音楽”だけでなく“コンテンツ”を作る事が重要であり、現在そして今後も大きなトレンドだと思われる“動画”コンテンツ制作のためのサービスを前回は考えてみました。

さて、どうブランディングしていくかですが、ファンの中でも熱心なファン、コアファンをどうやって増やしていくか考えたいと思います。前回の課題をどう解決するか考えるなら、まずどうやってファンなってもらえるようにコミュニケーションを行うべきか考察すべきですが、それはまたの機会にさせて下さい。今回は次のステップ、ファン→コアファンの育成について書いてみます。

 

改めてアーティストアプリの可能性を考える

 

コアファンの育成にアーティストアプリが有効なのではないかと思っています。アーティストアプリの可能性については以前にも触れましたが、それはやはり大きく伸び続けているスマートフォンの普及にあり、今年度も大きな成長率が予測されています。(参考:Venture NowAndroid 端末稼働台数は1600万台~1700万台-モバイルコンテンツ市場予測

携帯は様々なデバイス・メディアの中でも最も個人にとって身近で最適化されたものではないでしょうか。そしてスマートフォンはフィーチャーフォン(ガラケー)とは違うリッチなコンテンツによる新たな体験の提供が可能です。アーティストアプリも以前触れた時より次々と新しいものも登場しています。

 

Sony Music Apps

ソニーミュージックオフィシャル・アーティストアプリ

 

 

Sony Music Apps

 

 

ソニー・ミュージックネットワークが昨年8月19日にリリースしたアーティストアプリです。ソニー・ミュージックエンタテイメント所属アーティストのアプリは、Artist App(無料)、Single App体験版(無料)、Single App(有料)、Album App体験版(無料)、Album App(有料)と5種類があります(アーティストによってはArtist Appのみの場合もあり)。Artist Appは最新ニュース、プロフィール、ディスコグラフィ、動画などオイシャルサイトと同様のオウンドメディア(自社メディア)として位置づけです。Single、Album Appは各タイトルの収録曲やライブの映像や写真、ゲーム、インタラクティブなミュージックビデオなどが体験できます。

 

NAVER App Studio提供アーティストアプリ

NAVER App Studio

 

NAVER App Studio アーティストアプリ・コラボアプリ

 

 

ネイバージャパン株式会社が昨年8月8日に提供開始したスマートフォンアプリ開発プラットフォーム「NAVER App Studio」。スマートフォンに最適化したアプリを無料で構築・提供。Sony Music Appsのようなオウンドメディアとしての機能をベースに、twitter・facebookなど各SNSとの連携や、またネイバージャパンが運営するコミュニティ「NAVER cafe」やソーシャルフォトサービス「pick」との連携だけでなく、オフィシャルファンクラブと連携しファンクラブ会員限定コンテンツやグッズの購入や各種特典・サービスの利用も可能になるようです。アーティストの世界観・方針に合わせて柔軟にカスタマイズができ、月額課金モデルの導入やアプリ内広告掲載などオプションもあるようです。詳細はこちらのプレスリリースをご覧下さい。

 

どちらもオウンドメディアとしてはアプリであることで、アクセスしやすく最新情報もプッシュ通知から見落とすことが少なくなります。さらにビジュアルやデザイン、操作性の高いUI(ユーザーインターフェース)に優れたアプリを提供する事でアーティストへのイメージの向上にもつながり、他サイト、ソーシャルメディアへのハブとしての役割も果たしています。そしてオウンドメディアをベースとしながら、サービスの派生や拡張を行っています。オウンドメディアとしてリッチな体験ができるのは素晴らしいのですが、アーティストのブランディングを考えた時にまた別の活用方法があるのではないかと思います。ブランディングという目的で考えた場合、2つのサービスは以下の点を改めて考える必要があります。

 

・Single・Albumアプリは単価が高く、各作品の楽曲が全て収録されている訳ではない。

・アプリのファンクラブとの連携は、ファンクラブに入っているユーザーだけが利用可能。

 

上記のサービスを購入・利用する方たちはすでにコアファンです。興味を持ったアーティストの情報を継続的に手に入れるためにオウンドメディアとしてのアプリをダウンロードする潜在的なファン。同じ作品でも違う体験・特典を求めてアプリを購入する、ファンクラブの特典・機能を統合した利便性を求めてアプリを利用するコアファン。両者の間には大きな溝があり、コアファンほど熱心ではないファンを如何にコアファンへ変えるのか、そのステップを踏む必要があるのです。

 

 

ファンクラブ特典を振り返ってみる

 

ここでコアファンを対象にしたファンクラブのサービス・特典にはどんなものがあるか振り返ってみます。

 

●一般的なファンクラブの内容

入会費1,000円、年会費3,000円

シリアルンンバー入りの会員証、年4回などの会報(紙媒体:冊子など)の発行

ライブのファンクラブ優先予約

ファンクラブ限定グッズの購入

ファンクラブイベントの参加(ファンクラブ限定ライブ、ファンクラブ旅行)

ミュージックビデオなどのエキストラ参加

音楽番組の観覧招待

ファンクラブ会員限定サイト、限定コンテンツやコミュニティの利用

 

さらに会報の内容を掘り下げてみると以下のようなコンテンツがあります。

 

会報限定の撮り下ろし写真(グラビア)

各作品やライブツアーなどのインタビュー

直筆のメッセージ

ライブやイベントの写真

ライブやイベントのレポート

楽屋などの様子

レコーディングやミュージックビデオ・CM撮影風景(いわゆるメイキング)

限定グッズのプレゼント(ファンクラブ限定グッズ販売とは別のもの)

テーマを決めた企画ページ(ロケ、対談、Q&A、チャンレジ企画などなど)

ファンのメッセージ・写真・イラスト紹介

 

ファンクラブに入会するファンの一番の目的はライブの優先予約権だと思いますが、会報に収録されているコンテンツもコアファンにしてみれば魅力的なコンテンツが溢れていると思います。一方ファンクラブ会員限定サイトはどうかというと壁紙のダウンロードやアーティストの動画コメントといった内容が多く、リッチコンテンツというとAKB OFFICIALNETなどもありますがデジタルコンテンツはあまり充実していないように感じます。

 

ファンクラブというクローズドなコミュニティ限定のサービスなので一般には告知していないものもあるかと思います。もしこんなのあるよ、といったものがあれば教えて下さい。

 

 

アーティストアプリをコアファン育成に活用する!

 

アーティストを熱心に応援してもらえるコアファンに向けたものだけあって、ファンクラブのコンテンツは非常に充実しています。冒頭に述べたブランディングはこのようなコンテンツを体験したいと思ってもらう=コアファンになってもらうためにどうするべきか?ということなのですが、その導線も様々だと思います。試しにアーティストの楽曲を聴いてみて興味を持った、友達からのシェアや口コミ、色々なメディアで情報を集めてみたりする、楽曲だけでなくどんな人なのか何となく理解する、イベントやライブで観てみたいと思うようになる、実際に生で観て聴いて体験して好きになる、自らアーティストの情報を発信するようになる、持続的にアーティストを応援してくれるロングエンゲージメントにつながる。これはほんの一例ですがこのような好意形成のプロセスがあり、様々なフレームワークもありますね。ただファンの方が一番求めるものはライブなどの生で得られる体験と、普段は見ることができない・知ることができないアーティストの裏側やプライベートな部分だと思います。現在はブログだけでなくtwitter、facebookなどのソーシャルメディアでアーティスト自身が活動の裏側やプライベートな情報を発信する事が増えてきました。そしてアーティストとファンが直接つながることでより身近に感じ好意を持ってもらいやすくなりました。

 

またファンクラブで得られるコンテンツ・サービスはそこだけの限定的なものなので、同じ活動の裏側、プラベートな情報だとしても深さと価値が違います。ただ価値の高いコンテンツが揃っていてもファンクラブのコンテンツ・特典は基本的に更新頻度が遅くインタラクティブ性に欠ける部分もあります。そしてファンクラブサイトのコンテンツは充実している状況ではないです。

 

潜在的なファン(ちょっと興味を持ってくれた方)には、情報のハブとなるオウンドメディアとしてのアーティストアプリは良いと思います。そしてコアファンには更新が遅くとも内容が充実したコンテンツを届けるのも良いと思います。ただしいきなり熱心なコアファンになってもらえる事は少ないですし、ファンをコアファンへと導くにはアーティストの裏側・プラベートな部分を知りたいというファンのニーズを段階的に高めていく事が必要でしょう。ブランディングを考える上で様々な手法があるとは思いますが、今後も大きな普及率が見込まれるスマートフォン、リッチな体験を提供できるアプリも活用すべきです。そしてここまで述べてきましたように活用の仕方を考えるべきなのです。

 

 

アプリによるブランディングと新たなビジネスモデルの構築

 

それではどう活用すべきなのか?裏側・プラベートな部分をみたいというニーズをうまく満たすことでロイヤリティを上げ、コアファンになってもらう。それはもっともなのですが、やはり大事なのはアーティストの魅力をちゃんと伝えていくことだと思います。冒頭で述べたように魅力を伝えていく事で、どんなアーティストだと思ってもらいたいのか、これからどんなアーティストになっていきたいのかを考えた上で、ニーズを満たす最適なコンテンツをスピード感を持って提供していく。これがアーティストアプリをブランディングに活用する上で重要なことだと思います。そしてこの活用方法は新たなビジネスモデルを構築できます。その構想を以下に書いてみます。

 

それはオウンドメディアとしてのアーティストアプリをベースにした上で、有料でコンテンツを楽しめる、いわゆるフリーミアムモデルのサービスになります。有料コンテンツは毎月更新される、インタラクティブである、ユーザーにとって参加しやすい仕組みを持つ、自分ごと化を促す、といった点を重点に置きます。ジャストアイディアなのでもっと深めていきたいと思いますが、大きく“レギュラー”と“イベント”の2つが良いかなと考えています。

 

●レギュラー

レギュラーは毎回更新されるコンテンツです。例えば写真ならお蔵入りになっている写真を公開します。ジャケット写真、アーティスト写真、ライブ写真、雑誌等グラビア用の撮り下ろし写真などがありますが、これらには掲載候補に上がりながらも使われなかった写真がたくさんあります。これらを可能な範囲で解放します。あとは連載コーナー。これはアーティストの新たな一面を発見してもらったり、内面を掘り下げアーティストをもっと知ってもらう、親近感を持ってもらうためのコンテンツです。写真など入れつつ読み物として毎月連載。テーマに沿った内容で例えば、インタビュー、対談、ファンのお悩み相談、アーティストのハマっているもの・趣味、可能ならイラストや小説など音楽以外のクリエイティブな特技、ロケによるレポート(興味のあるものを学びに行く・体験、思い出の場所・お気に入りの場所を訪れるなど)、オススメの○○紹介。などなど連載コーナーとして毎月更新して行きます。これらは一例ですがアーティストの好み・ライフスタイルなどから魅力を伝えていく企画は他にも色々あると思います。あと連載コーナーとしてはスタッフからの目線でアーティストについて伝えるコーナーもおもしろいかと思います。中には一芸に秀でていたり非常にキャラの濃いスタッフもいたりします。そこにフォーカスしたりアーティストといっしょに絡んだ企画も、キラーコンテンツになるかもしれないです。

 

●イベント

こちらは事前に告知をしながらも不定期かつ期間限定で提供されるコンテンツです。そしてユーザーを巻き込む参加型のものになります。現在は動画だとシングル・アルバムのリリースタイミングでのコメント、インタビュー、MV撮影等のメイキング、ライブのUstream等での配信などがありますが、これらとは違う視点のものになります。メイキングは別としてもこれらの動画はPR要素が強いですね。そうではなくもっとプライベート要素が強くユーザーに対してスペシャルなものです。例えばライブの前と後でアプリユーザーだけに向けたコメントを楽屋などで生配信します。ライブに臨むまたは終わったあとの心境をリアルタイムでユーザーだけが視聴できる仕組みです。ライブに参加するまたUstream等で視聴するのとは違うここだけのスペシャルな体験を得られます。人数に制限はありますがGoogle+のハングアウトのビデオチャットのようにコミュニケーションをとれるのもおもしろいかもしれません。アーティストによって様々かもしれませんが、ライブのMCのようにファンとコミュニケーションすると考えればそんなにハードルの高いことではないかと思います。他には現在制作中のいくつかのMIX音源の試聴などどうでしょうか。音はまだ荒くても新曲をいち早く試聴でき、次にシングルでリリースして欲しい曲をユーザーに投票で選んでもらいます。アプリなので音源をコピーされる心配はありませんし、ユーザーに投票という形で次のリリース楽曲を選んでもらうことで自分ごと化を促していきます。他にはジャケット写真のデザイン・イラスト、ツアーのロゴなどを募集するコンテストを行い、採用者以外の応募者の名前もクレジットに反映したりなど。

 

他にも色々考えられると思いますが、もっとアーティストの事を知りたいと思うファンのニーズに応え、このサービスだけでしか知ることのできないアーティストの魅力、コンテンツを充実させる事が重要です。そして毎月更新されるレギュラーコンテンツと期間限定のイベントコンテンツの2軸でブランディングと持続的な収益を得ることが狙いです。価格はSingle・Albumアプリのような落とし切りだけど高額なものではなく、100〜200円までの月額課金制。ファンクラブ会員はさらに割引きがあってもいいと思います。短期的な利益追求よりも長くファンとつながり、熱量を高めていくためにこの価格帯で設定します。CDの特典を変えて同じタイトルを複数枚買わせる手法は以前からありますが、短期的な利益追求ばかりしているとファン離れにつながる危険性があります。音楽業界は年々縮小しているのでそうなるのは仕方がないとはいえ、新たに持続的なビジネスモデルを構築して行くことも必要です。どうすれば長くファンに愛されるようになるのかブランディングと共にこのようなビジネスモデルを構想してみました。

 

あと一番最初にメジャーアーティスト向きと書いたのは、初期費用とアーティストによってはその回収に時間がかかるもしれないからです。なのである程度のファン数を抱えているアーティストには特に有効なサービスだと思います。簡単な構想でしたがいかがでしょうか?ご感想などありましたらコメントを頂けると嬉しいです。

 

また変化のスピードが早い現在は音楽業界も多くの課題を抱えています。引き続き課題解決の考察をしていきたいと思います。

 

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コラボレーションが新たなエンターテイメントを生む

 

久しぶりの更新になります。

前回、新人や無名でも実力のあるアーティストが活躍できる仕組みを考える事も音楽業界の課題だと書きました。今回はその事について考察したいのですが、その前にしばらくお休みしていた間に色々と大きな動きがありましたね。まずは期待していたiCloudのiTunes Match。アメリカでは昨年11月にようやくスタートしましたが、日本ではサービスが見送られることになりました。アクトビラやMYUTA事件などの過去の判例の懸念から見送られる事になったと聞き残念です。そしてSpotifyのプラットフォーム戦略。API公開によりサードパーティーのアプリをSpotify上で利用できるようになったようです。Billboardのヒットチャートやニュース、今の気分に合わせたプレイリストの作成、Turntable.fmのようにリアルタイムで同じ音楽を視聴・共有できるようになったりと音楽の新しい楽しみ方に対応・提案され始めてきました。

 

あとはFacebookの新機能。自分の年表を作成しよりコミュニケーションを助けてくれる「タイムライン」と、ライフスタイルやエンタテイメントなどのパーソナルな情報をより簡単に共有する事で新たな体験を生み出す「ソーシャルアプリ」。日本でもいよいよスタートしましたね。今後パーソナルな情報が親しい間柄の人たちと共有されることが加速し、それが当たり前になった上で新たな体験や価値、利便性などを提供するサービスが生まれてくるのではないでしょうか。

 

 

シェアビジネスの浸透

 

そして共有=シェアされるのは情報やデジタルなものだけではなく、物質的な製品または目には見えにくいサービスもあります。国内でもこのようなシェア系サービスが立ち上がり、昨年7月にはSHAREカンファレンス2011が開催されるなど“コラボ消費”というシェアビジネスが浸透し始めているのを感じさせられました。大量生産・大量消費社会が様々な問題を生み行き詰まりを見せ、所有から共有・利用へ人の意識が変化する中で、これから人は何に価値を見出すようになり、現在のビジネスにどのような影響を与えていくのか考えさせられました。

 

代表的なシェア系サービスとしてよく取り上げられるのが、Airbnb(エアービーアンドビー)です。

Airbnb

 

WEBで泊まる場所が必要な旅行者と、余った部屋を貸したい人(ホスト)とのマッチングを行うサービスです。

 

コラボ消費には複数のモデルや成立のための原則がありますが、注目しているのが「コラボ的ライフスタイル」と「他者との信頼」です。Airbnbは一度残念な事件が起こったりもしましたが、Facebookアカウントの連携や利用者のレビュー、メッセージでのインタラクティブなやり取りによって、ホストと旅行者がお互いどのような人物か信頼性を証明し可視化できる仕組みになっています。そうして自分の好きなタイミングで余った部屋(空間)を貸し借りができるわけです。時間や空間・スキルなどを共通の目的を持つ人たちが集まり、お互いを信頼する上で成り立つ。そして人と人とのつながりから社会的な関係が作られコミュニティが生まれます。

 

メジャーの課題はインディーズの課題でもある

 

さて、前回の所有からアクセスへ~新たな音楽体験が必要ないま~では、CDのみに依存するビジネスモデルでは限界があり音楽配信、権利を押さえた上で無料で音楽を楽しむ層をどう積極層に変えていくか、例としてストリーミング音楽配信をあげました。そしてソーシャルだけでなくメディアニュートラルでユーザーとコミュニケーションを行うこと、リアルな場であるライブ、イベントへの誘引と持続性を持つこと。共有してもらうこと(コンテンツを作ってもらうこと)で、自分ごと化させつながり続けることで徐々に好意度を形成していくことが重要です。そのためにはやはりユーザーが何を求めているかを考えることです。ここまでトータルに考えプランニングする事が音楽業界の課題として述べましたが、これはメジャーに限らずインディーズにとっても言えることです。

 

インターネットが普及してMyspaceなどの音楽SNSが登場した頃から、音楽業界ではメジャーとインディーズの境界がなくなった、なんて言われたりしていました。確かに自分たちで無料でホームページを作れたり、音源を公開し視聴できたりなど情報発信が以前より容易になったためそう言われますが、大きく違う点があります。それはブランディングです。メジャーでは事務所に所属しレコード会社とも契約することで、大きなバックアップが得られます。そこには様々なプロやスタッフが関わっていて、外にはマスメディア、広告代理店、販売店、イベンターなどなど多くの人たちの協力・支援と共にアーティストは成長しそのブランドが作られていきます。ブランドという言い方をすると抵抗を持たれる方もいられるかもしれませんが、楽曲だけでなくそのアーティストにどんな魅力があるのか、それを確立しそのアーティストについて何も知らない人にも分かりやすく伝えていく事は重要です。人気のあるアーティストは自分たちがやりたい事だけじゃなく、自分たちの武器は何か=どうすればファンが喜んでくれるかも分かっていますし、どうすればもっと良いものにできるか常に考えていると思います。ライブでもその場にいるファンまたはお客さんと楽しい・一体感のある時間を作ろうとし、それが演奏・トーク・パフォーマンスなどで伝わるから心が動かされるのではないでしょうか。とはいえメジャーも上記のように新たな課題に直面しニーズの変化に合わせてどうブランディングしていくか問われています。

 

さてアーティストのブランドをどう作っていくかですが、まずどんな人たちに楽曲を、アーティストの魅力を伝えて行くのかを押さえる事が重要です。このブログでも何度もお伝えしていますが、情報洪水の現在ではもはやマスだけの一方通行なコミュニケーション(プロモーション)ではスルーされるだけになります。ソーシャルメディアはもちろんの事、様々なコミュニケーション・チャネルを活用すべきです。色々ありますが音楽の楽しみ方の変化も押さえておかねばなりません。それは前回のエントリーでも触れましたが、動画サイトの利用実態にみられるように映像コンテンツの重要性もそうです。音楽はもはや映像として楽しまれているとも言えます。良い楽曲を作るだけでなく、どうアーティストの魅力を伝えていくか、そのためには“音楽”だけでなくどう“コンテンツ”を作っていくかが重要になります。そしてコンテンツをどのメディアに、どのような形でユーザーに届け、共感してもらい好意を形成しファンになってもらうか。戦略を考えねばなりません。

 

とは言え様々なバックアップを得られるメジャーアーティストならともかく、無名なインディーズアーティストが楽曲の制作、練習、ファンとのコミュニケーション以外にこれらの事を全て実行するにはかなりの労力が必要になります。収入を得るために仕事もありますしね。よくネットならファンに直販できるからレコード会社やレーベルなどは不要だと言われたりもしますが、これらのコストをアーティスト自身でまかなえる場合、もしくは代行してもらえる場合に限るのではないかと思います。大手のレコード会社・事務所に所属していたけれども独立し自身のサイトでファンに直販を行っている方もいますが、それはファンの数などある程度の規模を確立したから可能だと思います。ではそうではないアーティストはどうすればいいのか?その課題を解決するサービスの構想をおおまかにですが次に述べてみたいと思います。

 

 

コラボレーション(協働)が新たなエンターテイメントを生む

 

まずコンテンツを作るという課題の解決です。映像コンテンツだとYouTubeやニコニコ動画でアップロードされた動画が話題になり、何百万回も再生されたりプロとしてデビューし、CD化される事もあります。そうした動画はズバ抜けた技術や魅力、ギャップ、驚きなどインパクトや視聴者の目を引き途中で離脱させないクオリティの高さがあると思います。そんなコンテンツを作るには音楽(演奏)以外のスキルも必要になります。そしてそのスキルが足りないのなら持っている方とシェア(コラボ)しましょう。

 

 

サービス

このサービスはアーティストの音楽・アーティスト自身の魅力を伝えるためのコンテンツを作り、それをユーザーに届けることを目的とします。今回はその中でも映像コンテンツの制作に焦点をあてています。

 

<課題>アーティストが映像コンテンツ制作のために映像クリエイターとコラボしたい。

 

さてスキルを持っていないからコラボすれば良いとは言っても、スキルを持った人、例えば映像クリエイターが簡単に見つかる訳ではなく見つかってもすぐには応じてはくれないかもしれません。それは相手が自分(アーティスト側)の事を実績も含めよく知らなかったり信頼できるのかどうかも分からないからでしょう。ここは現在のシェア系サービスのようにfacebookアカウントでログインできお互いの信頼性を可視化・証明できるシステムと、アーティストと映像クリエイターがコミュニケーションできるクローズドな場を用意することが必要になります。そしてお互いにどんな人物で何が好きで何に影響をうけたか、どんな実績があるのかなどをコミュニケーションの中で知ることができる。そして大切なのはそのアーティストがどんなビジョンを持っていてどんなユーザーにどんな音楽を伝えていきたいのか、ターゲットとポジションを明確にしてそれを伝えることです。そこに映像クリエイターが共感してくれれば一緒にコンテンツを制作するためのコラボレーションが行われることになるのではないでしょうか。

 

このサービスを一言でいうと既存のシェア系サービスのアーティストとクリエイター版になります。情報の検索、比較検討、共有が進みサービスも進化する中で、このような必要とする人材・スキルとの出会いを最適化するマッチング、コラボレーション系のサービスは増えてくるのではないかと思っています。

 

メジャーアーティストも一つの作品をリリースするのに多くのスタッフが関わっています。たとえば映像・写真などでは映像監督、ディレクター、カメラマン、照明、ヘアメイク、スタイリスト、場合によってはダンサー、イラストレーターやアニメーターなど様々なプロの協力によって制作されています。アーティストの課題によって必要なクリエイター・表現者を見つけ、信頼と共感から同じ目的意識を持ってコンテンツ制作に取り組むことはお互いへの関与度も大きくなり、アーティストとクリエイターそれぞれに共感・好感を持つ人たちを取り込むことができ、小さくともタイアップのような相乗効果もあるのではないでしょうか。

 

僕自身も共通の目的意識を持つ(共感でき共有ができる)人たちとのつながりが、新たなムーブメントや大きくなくても新たな変化を起こしていくパワーと可能性を強く感じています。

 

 

価格

悩ましいのが価格設定ですね。WEBサービスはフリーのイメージが強いですが、ここは最低価格を設定した上で、クリエイターが提示する金額をアーティストが支払うという形が良いかと思います(もちろんその逆もありえます)。そしてサービス提供者は手数料をそこから頂くという形です。ユーザーのコラボの増加と人気・実績も高まってくれば価格帯に幅も出せます。

 

 

チャネル・コミュニケーション(プロモーション)

このサービスはアーティストとクリエイターのコラボレーションを促進しお互いの魅力を伝えるコンテンツを作り、ユーザーに届ける事が目的です。ですのでこのサービス上でコラボによって制作されたコンテンツの公開(視聴・閲覧)、ランキング、販売も可能としながら、You Tube、ニコニコ動画など他のサービス上での公開や販売も可能となります。

 

この辺りで注目すべきサービスとしてはGoogle Musicですね。昨年11月に正式公開され様々な機能が発表されました。現在はアメリカだけですがインディーズアーティストがArtist Hubというサービスで自分のアーティストページを作り楽曲の販売を行えるようになりました。国内ではiTunes、Amazon、レコチョク、music.jp、dwangoでも手続きを踏めばインディーズ音源のPC配信・着うた配信も可能ですし、代行しまとめてディストリビューションしてくれるサービスも存在します。また1/5にアーティスト支援サイト「フリクル」がiTunes、Amazon等での楽曲配信サービスがスタートしました。フリクルはメジャーデビューを果たしたバンド「メリディアンローグ」のドラマー海保けんたろーさんが株式会社ワールドスケープを起業しスタートされたサービスです。実力・人気のあるアーティストが音楽活動で収入を得られるように音楽業界の課題解決に真剣に取り組まれています。また昨年9月には株式会社GNTのグループ会社ICJがSpotifyとの提携を発表し、Spotifyで国内の音源が配信可能になりました。

プレスリリース(PDF)

 

このように販売チャネルやプロモーションに有効な大きなサービスも多いですが、本サービスの目的は上記の通りです。コラボレーション促進のためにYou Tube、ニコニコ動画での再生回数が本サービス上で一目で分かるようにし、過去にそのアーティストがどんなクリエイターとコラボしたのか、どれだけtwitter、facebook、Google+などで共有されたのか評価や実績を可視化し、新たにコラボする相手を探す時に判断しやすいように設計します。

 

そして肝心のブランディングについてですが、コンテンツを作るのはアーティスト、クリエイターの魅力を伝えること。つまり共感・好感を持ってもらい自分ごと化させるためです。だからどんな人たちに届けたいのか、どうすれば興味を持ってもらいやすいかを考えた上でメディアを活用する必要があります。映像ならYou Tube、ニコニコ動画なのか、写真・イラストならInstagram、pixivなのか、どのメディアなら効果的に届けられるか広く共有されていくのか。ファンまたはターゲットとするユーザーが何を好み何を求めているのか、コンテンツを作る際にも徹底的に考える必要がありますね。それが分からなければライブの際などのアンケートやじっさいに直接聞いてみたり、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションの中で聞いてみるのもいいと思います。アーティストのどこが好きでどこに共感しているのか今後何を求めているのか、それらを反映したり制作の過程を公開したり、一部の優良なファンを制作への参加に促すのも良いと思います。

 

自分ごと化させファンになってもらう、ライブに来てもらう、マネタイズの仕組みを考えるのは難しいですね。ここは戦略を練れる人材がどうしても必要になります。このサービスでそんな方たちとのコラボ(マッチング)も行えればいいなと思います。もしくはサービスの一つとしてコンサルティングを行うのもいいですね。

 

 

最後に

 

さて音楽業界の、インディーズアーティストの課題解決のために、新しいサービスの構想をおおまかに述べてみましたが、インディーズアーティストがどれくらいおり、どれだけの人がこのサービスを利用してもらえるかは定量的には分析していません。すみません…

 

ただコンテンツの多様化、消費、音楽の楽しみ方が変化しているのは間違いなく、それに対応していかなければならないのです。そうでなければ音楽業界の縮小は進み続け、新たなアーティストが活躍する機会も減っていくばかりです。決して音楽が聴かれなくなったわけではなく、ライブへの動員数は2010年も微増しています。また海外で通用する日本の文化・コンテンツもあります。アーティスト・クリエイターがちゃんと利益を得られ新たな活動につなげるにはどんなサービスが必要か考えてみました。

 

テキストのみなのでイメージしづらい部分があれば申し訳ありませんが、ここまで読んで頂いた方はこのようなサービスはどう思われるでしょうか?ご意見・ご感想などございました是非ともコメント頂けると嬉しいです。

 

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