音楽業界が迎えるパラダイムシフト

 

今回は音楽業界の現状を分析し3つの変化から新たなパラダイムを迎えており、新しいビジネスモデルが必要である事を明らかにします。そしてその上で押さえるべき重要ことは何か、今後どうしていくべきか考えてみたいと思います。

 

市場規模の変化をみる

 

下のグラフは2011年までの音楽ソフト生産実績の推移を表したものです。

 

音楽ソフト生産実績の推移(2011年)

 

・音楽ソフトは、オーディオレコードと音楽ビデオの合計

・オーディオレコードは、CDシングル・アルバム・アナログディスク・カセットテープその他の合計

・音楽ビデオは、DVD・Blu-ray・テープ・その他の合計

 

権利ビジネス・デジタル配信を除いたCDやDVD・Blu-rayといったパッケージでの総合計が音楽ソフトになります。グラフを見ると2011年の生産実績は281,850百万円。前年比は99%と微減ですが依然として減少し続けています。

 

次にオーディオレコードの内、CDの合計生産金額の推移を見てみます。

 

CD合計生産金額の推移(2011年)

 

CDの合計は208,501百万円で前年比は94%とこちらも減少し続けています。内訳をみるとシングルが前年比116%と成長しているのに対し、アルバムが前年比89%と大きく減少しています。シングルは昨年のAKB48の5作連続ミリオンヒットという90年代にもなかった驚異的な売上が貢献しています。CD全体だけで見るとそれほど減少していないように思えますが、シングルの成長はAKB48やK-POPの貢献が大きく、今後も同じ規模で継続していくものとは考えられません。一時的なものだと考えるべきです。それよりもアルバムの大きな減少の方が深刻です。

 

次に音楽ビデオの生産実績の推移を見てみます

音楽ビデオ生産実績の推移(2011年)

 

2010年にはそれまでの成長傾向が止まり大きく減少しましたが、2011年には急上昇しています。これはDVDの成長が回復したこともありますが、それ以上にBlu-rayの成長が大きいです。2011年は地上デジタル放送の完全移行により薄型テレビの駆け込み需要がありました。それに伴いBlu-rayのHDDレコーダーの買い替え需要もあり、アーティストのライブ映像はDVDだけでなくBlu-rayでも販売され始めました。そのような要因からBlu-rayの大きな成長がありました。今年2012年1月は前年比47%と大きく落ち込みましたが、2月は前年比127%、3月は前年比128%と再び上昇しています。

 

ここまで音楽ソフトの生産実績、CD合計生産金額、音楽ビデオの生産実績それぞれの推移を見てきました。こうして見てみると音楽ソフトというパッケージの規模は前年比99%と減少は少ないように思えますが、それを支えているのはシングルの異常な売上と映像ソフトのトレンドによるものです。これが持続的に続くものなら市場規模の縮小に歯止めがかかるかもしれませんが楽観はできないでしょう。

 

それでは次に音楽配信の売上実績の推移を見てみます。

 

有料音楽配信売上実績の推移(2011年)

 

2009年をピークに大きく減少してきており、2011年の売上高は71,961百万円。前年比84%です。CDに代わる新たな収益源として期待を持たれていた音楽配信ですがアルバムより若干大きな落ち幅です。これはやはりスマートフォンへの移行が原因でしょう。2011年はガラケー(フィーチャーフォン)からスマートフォンへの乗り換えが大きく広がりましたが、ガラケーで購入した着うたフルなどの音源がスマートフォンに引き継げず再度購入しなければならないという問題がありました。これに対応するためレコチョクではAndroid向けに2012年1月から着うたフルで購入した音源を無料でスマートフォンにダウンロードできる「おあずかりサービス」を開始しましたが対応は遅く、これまで利用していたユーザーが離れてしまい損失につながったと言えるでしょう。ただスマートフォンはYouTubeやニコニコ動画といった動画配信サイトがガラケーより利用しやすくなりました。このブログで何度も述べていますが、音楽の楽しみ方の変化も影響しているでしょう。

 

さてここで見て頂きたい図があります。

 

プロダクトライフサイクル

 

S字曲線で表されたこの図はプロダクトライフサイクルと言います。横軸に時間、縦軸に売上高や業界規模を用いて、ある製品が市場に投入されてからの成長や需要の変化を示したフレームワークです。このプロダクトライフサイクルは「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」という4つのステージを経てサイクルの変化を可視化するものです。市場全体に対する売上・規模の比率によって顧客のタイプは以下の5つに分けられます。

 

イノベーター 2.5%革新者:リスクを恐れず自身の技術的な知識・嗜好に基づいて購買を行う

アーリー・アダプター 13.5%新しいもの好き:流行に敏感で自らも情報集を行う

アーリー・マジョリティ 34% 初期大衆:新しい技術や商品の購買には比較的慎重

レイト・マジョリティ 34%後期大衆:アーリー・ジョリティよりさらに慎重で、懐疑的

ラッガード 16%遅滞者:非常に保守的。流行に流されない

※需要が加速しブームになるといわれるキャズムの壁は16%

 

ここから何が言いたいのかというと、CD販売ビジネスは最盛期の約1/3の規模となりすでに衰退期に入っている。そして音楽配信も衰退期に入り始めたという事です。定量的にみるとこのような事実が読み取れます。

 

 

ライブ動員数の変化をみる

 

こちらのグラフはライブ・コンサートの年間動員数の推移を表したものです。

コンサート年間動員数の推移(2011年)

 

最新のデータが2010年のものなので、昨年の震災によるライブの自粛などの影響がどの程度あったかは分かりませんが、2010年は2,618万人を動員。前年比は100.4%と微増で引き続き増加傾向にあります。ここから言える事は音楽業界は縮小していても、音楽離れは起きていないという事です。これは音楽を含めテクノロジーの進化で手軽に購入されるようになったコンテンツ業界で音楽をビジネスに闘っていく上で重要な事です。

 

 

ニコニコ動画から音楽の楽しみ方の変化をみる

 

2006年12月にサービスを開始したニコニコ動画。初期は著作権侵害で深刻な問題を抱えていましたが、VOCALOIDの初音ミクをきっかけにユーザー数は急成長を続け、現在は総登録会員数は2,600万人を突破し、有料のプレミアム会員は4/26の時点で162万人となっています。ユーザーは若年層を中心に拡大し続けており、20代総人口の約85%がニコニコ動画会員という驚異的な普を持つまでになりました。会員の内訳は20代が43.5%と最も多く占めています。(参考:急拡大中のメガ共感型メディア“ニコニコ動画”とは日経エンタテインメント!) このような背景には、この世代は幼い頃からメールを始めとしたインターネットによるコミュニケーションに慣れ親しんでいるおり、ニコニコ動画のインターフェイス・コミュニケーションが、他の世代とは比較にならないほど受け入れられているためだそうです。ニコニコ動画の成長の理由はこのコミュニケーションにあります。音楽も動画として楽しまれる傾向が強くなってきましたが、ニコニコ動画は動画を配信するだけではなく、動画の上を字幕のように右から左に流れるユーザーコメントによるコミュニケーションが特徴的です。みんなでツッコミを入れたり一緒に盛り上がったりする事で強い共感や一体感を感じる事ができ、高い熱量を生みだしてきた事で多くのユーザーの参加を獲得しています。またWEBだけでなく昨年7月にオープンしたライブハウスのニコファーレやニコニコ超会議といったリアルでのイベント体験も成功要因の一つです。

 

ユーザーが投稿した作品や運営・企業側が制作した番組につけられたコメントはそのコンテンツの一部となり、共感や一体感を生み出していくのに重要な要素になっています。これはアーティストが来てくれたお客さんと一緒に盛り上がり、一体感を感じられる高い熱量を持ったライブを作っていく事と同じです。このようにニコニコ動画の成長から、音楽はリアルでもWEB上でもコミュニケーションの一つとして楽しまれている事が分かります。もちろん一人で音楽を聴いて感動したり楽しむ事もありますが、同時にその感動・楽曲の良さを伝えたい、共感してもらいたいという想いもあると思います。音楽だけの話ではありませんが、ソーシャルメディアはそれを容易に行えるようにし共有という文化を生みました。共感を得て、自ら参加する事で、“体験を共有する”事ができます。ニ次使用によるコンテンツの創作だけでなく「いいね!」や「RT」といったシェア、キュレーションもひとつのコンテンの創作であり、体験の共有になるのです。音楽は所有する事ではなく、この体験の共有へと楽しみ方が変化しているのです。

 

 

変化に合わせたビジネスモデルを作らなければならない

 

以上の3つの変化から音楽業界がこれまでの構造とは大きく異なり、新たなパラダイムへと変化している事が分かります。これからのために新たなビジネスモデルの構築が課題です。所有ではなく体験の共有へと楽しみ方が変化している中で、CD・ダウンロード販売をいくらプッシュしても売上の増加につなげることが難しいのは当然です。CDはグッズと同じポジションへと変化し、購入するのは所有したいと思う熱心なファンになります。次に新たなビジネスモデル構築の際に重要な3つのポイントを挙げてみます。

 

【共感を得ること】

まずソーシャルメディアによって情報の流通が大きく変化した事を認識する事です。ソーシャルメディアによる双方向的な情報の発信、コミュニケーションによって個人が影響力を持つことが可能になり、誰からの情報が信頼されるのか、どんな情報が共感を呼ぶのか変化しました。以前のように影響力あるメディアから一方的に大量の情報を露出すればするだけ売上が上がっていた時代ではありません。共感がなければ情報はスルーされ、マスだけを考えた一方的な情報発信では共感を呼ぶ事ができず、アーティストのブランドを作る事は非常に困難です。マーケティングとソーシャルメディアをどう活用するのか考える際に、共感を得ることが大事なポイントになってきています。

 

 

【コンテンツを解放すること】

そして体験の共有というニーズを摑まなければなりません。ここで重要なのは“コンテンツを解放する”という事です。共有・シェアをするという文化はリアルの場でもシェアハウス、コワーキングスペースというように広がりを見せ、WEB上でもリアルでも新しいライフスタイルとしてさらに浸透していくでしょう。そして共有・シェアは“コラボレーション”を起こします。この時に権利でガチガチに縛っていたら、共感によってその場所に集まる人たちの好意・感動・リスペクトといった想いから生まれるコラボレーションを殺してしまいます。難しいスキルや高いコストを必要とせずに情報の共有が可能で個人が影響力を持つソーシャルの時代に、コラボレーションを阻害するメリットはありません。むしろコラボレーションによって一緒にアーティストのブランドを作っていくべきです。コラボレーションから生まれたコンテンツが共感される事で新たなファンの獲得につながっていきます。コラボレーションだけでなくシェアやキュレーションなどによって、その場に参加する事で帰属意識が生まれ自分ごと化される。そして一緒にアーティストのブランドを作り、ファンもブランドも一緒に成長していくのです。規模はマスメディア全盛の時代ほどではなくても、一緒に成長してきたコアファンに支えられたブランド、コミュニティならば充分に活動できるだけのマネタイズの方法も考えられるではないでしょうか。

 

 

【リアルと融合すること】

WEBだけで、ライブなどリアルの場だけで完結するのではなく、両者を紐付け融合させること。つまりはO2O(オフライン to オンライン)です。ソーシャルメディア上でライブ前に対する期待で盛り上がったり、要望などを募ったり。実際のライブでユーザーの声を反映したり、生配信を行いユーザーもそこに参加したり、現場の熱気をテキスト、写真、動画でも発信したり。ライブが終わったあとの感動をまたソーシャルメディア上で伝えあったり、そこにはライブの写真やアーカイブでの配信があったり、また次への期待が高まったりなどが現在の状態かと思います。今後はリアルの場でテクノロジーの活用が重要になると考えられます。リアルの場に参加する事でしか得られない体験が新たな価値となります。例えばPerfumeの「Perfume実写AR付きイヤホンジャック・アクセサリー」。先に実施されたPerfumeツアーパンフレットでは1つのコードで誰もが楽しめてしまいましたが、イヤホンジャック・アクセサリーは本人しか使用できないアクセスコード認証付きのARコードなので、その場にいた人だけが楽しめる設計になっています。他に位置情報ではFoursquareの「Foursquare for Music」。チェックインする事でそのイベントやアーティストに関連したインセンティブが受けられます。jay kogamiさんのこちらのエントリーに詳しい解説があります。あとフェスなどで感じるのはアーティストの転換の合間の時間の活用です。転換の時に違う会場に移動したり、トイレ、食事やグッズを買うために並んだり、休憩したり、友達と喋っていたりと様々な時間の使い方があると思います。こういうちょっとした隙間時間にもフェスの熱量を持続させるような取り組みができそうな気がします。このように参加への意欲を促し、ソーシャルメディア上で発信された体験が共感を呼び、またリアルへの参加を促していく。こういった良いサイクルを起こす事が重要です。

 

 

今後どうすべきか

 

これらの3つのポイントを押さえた上でビジネスを行っていかなければ、新たなパラダイムを迎えた音楽業界で事業を成長させるのは困難です。特にレコード会社はアーティストの権利収入からの、いわゆる360°ビジネスや、音楽以外の事業の多角化を行っているところもありますが、成功体験から脱却しこれらの変化をきちんと認識しないと衰退し続けるだけでしょう。

 

そんな中でもユニバーサルミュージックは変化に対応した新たな取り組みを開始しました。

UNIVERSAL MUSIC UJ AUDITION

 

UNIVERSAL MUSIC UJ AUDITION

スマホからオーディションにエントリーするのですが、従来のオーディションとは違いクリエイターがユニバーサルミュージックに所属するアーティストに楽曲提供やプロデュースや、今後は応募者同士のコラボレーションの企画も考えられているそうです。この辺りはさすが定額制音楽配信に対しても理解があり時代の変化を感じ取っているユニバーサルミュージックだなぁと思います。

 

また日本からも変化を意識した音楽サービスが生まれてきています。同じ曲を違う時間に聴き非同期型でコミュニケーションを楽しむBeatrobo

Beatrobo

 

Beatroboとは逆にリアルタイムで同じ曲を聴いてコミュニケーションを楽しむPicotube。こちらはリアルでのイベントも   定期的に行っています。

Picotube

 

Mashroom.fmはYouTubeの動画を最大6つまで再生でき、再生した動画に合わせて自分も演奏しバーチャルセッションができるサービスです。自分のパート以外の曲を再生して練習するのはもちろん6つの音源を自分で演奏することもできます。リアルタイムではない非同期のサービスですが、時間と距離を超えてセッションができるのでバンド内での練習や、新たなメンバー募集の際になどコラボレーションにも活用できそうです。

 

mashroom.fm

 

また5/1にはニコニコ動画が新バージョン「Zero」を実装し様々な新サービス・新機能を開始しました。その中でも音楽ダウンロードの「NicoSound」が注目です。これはユーザーが作った動画の音声部分のみを無料でダウンロードできるサービスです。Zeroバージョンに変更し制作したユーザーが許可した動画に限りダウンロードが可能でPC、Androidで使用できます。今後は有料配信も可能になるようで、そうなるとユーザー同士で音楽コンテンツの販売、購入が可能になり、共感とコラボレーションで成長したユーザー、コミュニティが利益を還元できる仕組みが整います。ニコニコ動画にはリアルイベントの強みもあり、今後のグローバル展開により海外ユーザーともコミュニケーション、コラボレーションが起こりユーザー、コミュニティが成長していけばそれは大きな市場機会になります。

 

ニコニコ動画はソーシャル時代における重要なポイントを押さえ大きな文化と生態系を形成しています。今後も音楽業界に与えるインパクトは大きくその動向は見過ごせないですね。ただ2ちゃんねる的なノリを苦手な人もいるので、ニコニコ動画によって拡大する文化、市場を追いつつニコニコ動画にはできないサービスを提供する事もできるはずです。上記のソーシャル時代で重要な3つのポイント全てを押さえずどれかに特化したり、特化しながら他のサービスと提携したり差別化して共生できるのではないでしょうか。ただし市場の変化で見たプロダクトライフサイクルで成長期にもって行くために、ニーズの変化と市場を取り巻く環境の変化を分析しスピード感を持って取り組まなければならない時代です。今後もiTunes Matchが日本でも本格的に利用可能になれば音楽業界はどうなるでしょうか?SONY のMusic Unlimitedの日本参入もありえるし、そうなってくるとSpotifyの参入障壁も下がると思います。

 

今年2012年はCDが生産されてからちょうど30年だそうです。30年間大きな変化がなかった業界も珍しいのではないでしょうか。これからの時代に音楽はどんな価値が求められるのか、引き続き新たな音楽ビジネスを考えてみたいと思います。コメントや感想はもちろんですが、僕で協力できる事などあればどんどん関わっていきたいと思っているので、お声掛け頂けたら嬉しいです。

 

itomasahiro

1980年生まれ。レコード会社にて営業・宣伝を担当。 縮小し続ける音楽業界と情報化社会の現在、変化してゆくコミュニケーションとライフスタイルから新たな音楽ビジネスを模索しています。

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