音楽業界は新規ビジネスを行わなくていいのか?

 

久しぶりの投稿になります。

 

今まで利用していたサーバーの更新ができなくなったためサーバーを移しブログもリニューアルすることになりました。バックアップを取っていなかったため、過去の投稿も一部だけ反映しています。あと前ブログの更新から1年以上空いてしまい申し訳ございません。現在グロービス経営大学院という学校に通い経営について体系的に学びスキルアップを目指しているのですが、2013年4月に入学し勉強が本格化し全然更新ができていませんでした。素晴らしい学びを得られ自分の成長につながっているのを実感していますが、きちんと整理し自分のものとして吸収するのも大変で正直ブログを書く余裕がありませんでした。今回はそんな日々の学びを自分なりに活かし、今の音楽業界に関しての考えを書いてみます。

 

音楽業界は新規ビジネスを行わなくていいのか?業界の最盛期であった90年代末と違って大きく環境が変化している以上「もちろん新規ビジネスを行うべき!」です。当然そのようにシフトしていくだろうと思っていたらあまりにも変化への対応が進んでおらず驚いています。なぜ変化への対応が遅いのか?音楽業界のあるべき姿とは何なのか?そしてそれらの前にこれまでがどうだったのかを改めて整理することで、あるべき姿に対しどれだけギャップがあるのかを特定したいと思います。

 

久しぶりということでもありますので業界の主な収益源であるCDの市場規模を見てみましょう。こちらは国内のCDの生産実績をベースにしています。

 

2013年 CD合計生産実績と成長率

 

2012年は音楽ソフト(オーディオレコードと音楽ソフトの合計)が14年ぶりの前年超えと話題になっていました。CDの合計で見てみると確かに224,631(百万円)、前年比7.7%の成長と14年間続いていた右肩下がりの傾向に減少傾向に底を打ったように見えます。ただしこの年はAKB48のミリオンヒット連発とジャニーズの好調なセールスに加え、大物アーティストのベストアルバムリリースが続いた一過性のものでした。2013年には-12.7%と大きく減少しています。おそらく2014年はさらに衰退していくと考えています。

 

それは現在のCD販売のビジネスモデルが変化に対応できず通用しなくなっているからです。ここで改めてそのビジネスモデルの構造を掘り下げてみます。

 

■音楽業界の特性とは何か?

90年代は音楽業界の成長期でした。CD販売のビジネスモデルはこの頃の環境に合致していたと言えます。音楽は生活必需品ではなく、無形であり、情緒的価値が重要なものです。人の嗜好によって評価は大きく分かれるものですが、何より感動と共感を得ることが必要になります。ここではマスマーケティングが有効でした。アーティスト自身の広告や音楽番組の出演だけでなく、ドラマやCMのタイアップなどとにかく露出量を増やし話題となり、ブームやトレンドを創ることで多くの共感や憧れを獲得してきました。広告の力で一気に売り切るだけでなく、ライブなどの音楽体験や楽曲に基づく顧客のエピソードなどから徐々に火がつき話題になる場合もあります。後者はPRへの綿密な下準備と長期的な視点が必要なので、デビュー前のアーティストや、低迷しているアーティストなどが採る戦略ですが、狙って成功させるのも難しい面があります。ブーム、トレンドの終了後は売り切るのが難しくなるため販売開始のタイミングをピークに持ってくるのが基本です。楽曲の制作費は高コストですが、CDは再販制度によって定価が守られていて価格競争はなく、原価は低く粗利が大きいのでハイリスク・ハイリターンと言えます。また参入障壁は高くなくメジャーからインディーズまで多くのプレイヤーが存在し競争は激しいです。差別化、話題性の創出には規模の大きさが有効でした。粗利の大きいCDを大量生産し、大量に露出させる広告の力で売り切ることで、原価と販間費の削減も実現させてきたのです。

 

音楽業界(CDビジネス)の特性

 

そして音楽業界の根本は権利ビジネスです。CDの収益が最も大きいのでこちらを中心に掘り下げていますが、音源、映像、広告収入、チケット、グッズ、その他コンテンツなど利益モデルは様々です。アーティストの楽曲・パフォーマンスのクオリティが下がる、アーティストへの共感が得られなくなる、といった飽きられたら終わりというリスクはもちろん存在しますが、アーティストの音楽体験を深め、顧客ロイヤリティの向上×顧客数の増加によって大きな収益が得られるため、権利を握っておくことは非常に重要になってきます。ただし1社ではバリューチェーン上の各リスクを抱えきれないため、レコード会社、小売店、事務所で生態系を築きリスクを分散しながらそれぞれ利益を得ています。

 

音楽業界のバリューチェーン

 

90年代の音楽業界(レコード会社)の成功要因は、質の良いアーティストを目利きし安定的に輩出しながら、広告・PRの力によって話題性・ブームを創出し、リスクを管理しながら売り切っていくことです。規模の大きさによって原価・販間費の単一コストを下げながら競合との差別化を実現していきます。これを継続的に行うことでアーティストのブランドを確立し顧客ロイヤリティを高めながら新規顧客を獲得することで、安定的な収益が得られるようになります。

 

 

■パラダイムシフト後はどこに市場機会があるのか?

このように90年代は音楽業界を取り巻く環境と企業の経営戦略が整合していたため大きく成長することができました。けれどテクノロジーの進化によって1999年から業界環境が大きく変化し始めます。この変化は非常にダイナミックで、テクノロジーの進化は様々な業界に影響を与えていますが、音楽業界が一番最初に大きな影響を受けたと言えるでしょう。既存のバリューチェーンに大きな影響を与え、CD販売のビジネスモデルを陳腐化させてしまいました。大きな環境変化によってこれまでの経営戦略と整合しなくなったのです。音楽とは元々無形のものです。CDという一つのパッケージだけでなく1999年のNTT docomoのiモードによる着メロ、その後の着うたによる音源として配信が始まり、コンテンツも多様化を見せ始めます。いつでもどこでも購入できるのは音源だけでなく、ECによってCDもそうなりました(配送というプロセスがあるので必ずしもすぐではありませんが)。音楽配信とEC、特にAmazonの日本市場進出は小売店との関係性に大きな影響を与えています。音楽配信は1曲から低価格で購入が可能な利便性を提供しています。希少性の訴求から購買促進へつなげていたDVDによる映像特典は価格再販制度の対象にはならず値引きが可能であり、ECではCD+DVDというパッケージは大幅な値引きが行われ価格競争を引き起こしました。さらには2005年のYouTube、2006年のニコニコ動画による音楽を映像として、不特定多数のユーザーとインタラクティブに、そして無料で楽しむことのできる視聴体験はこれまでの顧客ニーズを大きく変えることになります。フリーミアムモデルの浸透は価格競争以上のインパクトをもたらしました。さらに情報化社会への移行、情報洪水の時代ではメディアの影響力、企業と顧客の力関係にも変化をもたらしました。それにより単純なマスマーケティングによる大規模な話題性・ブームの創出が困難になりました。

 

テクノロジーの進化が既存のバリューチェーンに大きな影響を与える

 

テクノロジーによる大きな環境変化によってこれまでの経営戦略と整合しなくなった状況で、それでもなんとかCDの売上を上げようとして生まれたのがAKB商法と呼ばれるようなCD購入者の特典として握手会、サイン会などのイベント参加券をつける戦略です。元々握手会、サイン会はファンサービスの一環として行われていましたが、現在のように機会の多いものではありませんでした。新規顧客の獲得が以前より難しい中で売上高増加のためには顧客単価を上げるしかなく、CDの複数枚購入を促す手っ取り早い方法として認められると一気に増加、定番化しました。今ではアイドルに関わらず大小様々なアーティストで実施されています。ただし短期的な利益の追求には有効ではありますが、やりすぎれば顧客に対して搾取の構造を生み出しアーティストのブランドを傷つけるリスクもあります。そもそもCDへのニーズと握手会・サイン会へのニーズは異なるものです。顧客ニーズが変化しビジネスモデルが陳腐化しているにも関わらず、握手会・サイン会に対するニーズによってCDを販売する戦略は整合性に欠けています。営業で色々とお店を回りお話を聞く機会はありますが、この戦略の限界を感じることが多いです。一人の顧客にCDの複数毎購入を促す戦略しか持てなければ、長期的に収益性を行く維持していくことは困難だと考えています。

 

ところで2013年の世界の音楽市場は15,029.5(百万ドル)で、日本は3,012(百万ドル)と約20%、第2位のシェアを持っています。他国がデジタルでの成長を徐々に見せ始めている中で、日本は前年比-16.7%と大幅に減少しています。冒頭で述べましたが主な収益源であるCDの売上高減少が原因です。そして第2位のシェアを持つ日本市場の減少のインパクトが世界市場のマイナス成長へとつながっています。

 

ここまでを振り返ると、以前は業界の置かれている環境と経営戦略が整合していたため大きく成長することができました。現在は環境が大きく変わり経営戦略と整合しなくなりビジネスモデルも陳腐化しました。そんな状況でもCDを売ろうとCDとは違うニーズを付加価値として提供するものの、完全に付加価値がそもそものCDという提供価値を上回りいびつな構造を生んでいます。長期的な音楽業界の成長を考えるのなら、まだCDの収益が大きい今のうちに新たな収益源となるビジネスモデルを構築することが課題です。CDの生産から32年が経ちますが、音楽業界はこれまで大きな変化がなく突然のパラダイムシフトを迎えました。90年代の成長期の成功体験が大きいとはいえ、環境が変化している以上新たな経営戦略を構築できなければ衰退を止めることはできないでしょう。

 

ではパラダイムシフト後のどこに市場機会があるのか?という疑問が出てくるのではないかと思います。一概には言えませんが、まず業界の構造がどう変わったのか、顧客のニーズがどのように変化したのかを押さえる必要があります。業界の構造の変化は上の「テクノロジーの進化が既存のバリューチェーンに大きな影響を与える」の図でまとめてみました。顧客ニーズの変化については以前にもこのブログで取り上げましたが、「所有から共有へ」、「憧れだけでなく、親近感」、「ネットとリアルでつながること」、「参加性」などが重要であると考えています。市場機会は顕在化しているわけではなく、業界特性を踏まえこれらのニーズを喚起し新たな市場を作っていく必要があります。具体的には次回で書きたいと思います。僕自身もまだ考えがまとまっていない部分もあり、すぐの更新は難しいかもしれませんが…笑

 

あと考えとしてあるのが、おそらく業界内から大胆な戦略の模索、構築は難しいのではないかと考えています。国内の上場企業は事業の多角化や海外への市場開拓のため新たに投資を行っていますが、業界全体としては新規ビジネスのための新たな組織の構築、運用がこれまでの資産に縛られ進んでいないのが現状だからです。僕はこの状況に非常に危機感を持っています。業界の成長のためには今後デジタルへの投資、戦略構築は必須です。また自分自身の将来を考えると、音楽業界への参入を考えている、またはコンテンツビジネスを強化しようとしているIT企業様で働きたいと考えています。音楽業界での経験×経営学の学びによってバリューを提供していきたいです。そのような企業様がいらっしゃいましたら是非ともfacebook等でお声がけ下さい。よろしくお願いします。

 

itomasahiro

1980年生まれ。レコード会社にて営業・宣伝を担当。 縮小し続ける音楽業界と情報化社会の現在、変化してゆくコミュニケーションとライフスタイルから新たな音楽ビジネスを模索しています。

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