アーティストアプリはコアファン育成に有効なビジネスモデル

 

今回はブランディングとメジャーアーティスト向けですが、新たなビジネスモデルについて書いてみます。

アーティストのブランディングを行うという事は簡単に言うと、好意を持ちファンになってもらい、さらに熱心なファンになってもらうようにする事。そのためには誰に、そのアーティストのどんな魅力を伝えたいのか、ターゲットとアーティストのポジションを確立する事。そしてファンになってもらうためにその魅力をどう伝えて行くべきか、コミュニケーションを行う事。コミュニケーションと言っても、マスもソーシャルもメディアは細分化すれば様々で多くの役割と手法(サービス)があります。それらを活用し認知からどうやって好意を形成していくかが前回からの課題です。まず魅力を伝える=コミュニケーションを行うには上記のようにアーティストのコンセプトは何か?立ち位置を明確にする事が必要であり、どんなアーティストになりたいのか?ビジョンを持つ事も必要です。それは自分たちの強みが何かを理解し、他のアーティストと差別化し埋もれてしまわないようにするためでもあります。そして明確なコンセプトとビジョンを持った上でアーティストの魅力を伝えて行く。そのためには“音楽”だけでなく“コンテンツ”を作る事が重要であり、現在そして今後も大きなトレンドだと思われる“動画”コンテンツ制作のためのサービスを前回は考えてみました。

さて、どうブランディングしていくかですが、ファンの中でも熱心なファン、コアファンをどうやって増やしていくか考えたいと思います。前回の課題をどう解決するか考えるなら、まずどうやってファンなってもらえるようにコミュニケーションを行うべきか考察すべきですが、それはまたの機会にさせて下さい。今回は次のステップ、ファン→コアファンの育成について書いてみます。

 

改めてアーティストアプリの可能性を考える

 

コアファンの育成にアーティストアプリが有効なのではないかと思っています。アーティストアプリの可能性については以前にも触れましたが、それはやはり大きく伸び続けているスマートフォンの普及にあり、今年度も大きな成長率が予測されています。(参考:Venture NowAndroid 端末稼働台数は1600万台~1700万台-モバイルコンテンツ市場予測

携帯は様々なデバイス・メディアの中でも最も個人にとって身近で最適化されたものではないでしょうか。そしてスマートフォンはフィーチャーフォン(ガラケー)とは違うリッチなコンテンツによる新たな体験の提供が可能です。アーティストアプリも以前触れた時より次々と新しいものも登場しています。

 

Sony Music Apps

ソニーミュージックオフィシャル・アーティストアプリ

 

 

Sony Music Apps

 

 

ソニー・ミュージックネットワークが昨年8月19日にリリースしたアーティストアプリです。ソニー・ミュージックエンタテイメント所属アーティストのアプリは、Artist App(無料)、Single App体験版(無料)、Single App(有料)、Album App体験版(無料)、Album App(有料)と5種類があります(アーティストによってはArtist Appのみの場合もあり)。Artist Appは最新ニュース、プロフィール、ディスコグラフィ、動画などオイシャルサイトと同様のオウンドメディア(自社メディア)として位置づけです。Single、Album Appは各タイトルの収録曲やライブの映像や写真、ゲーム、インタラクティブなミュージックビデオなどが体験できます。

 

NAVER App Studio提供アーティストアプリ

NAVER App Studio

 

NAVER App Studio アーティストアプリ・コラボアプリ

 

 

ネイバージャパン株式会社が昨年8月8日に提供開始したスマートフォンアプリ開発プラットフォーム「NAVER App Studio」。スマートフォンに最適化したアプリを無料で構築・提供。Sony Music Appsのようなオウンドメディアとしての機能をベースに、twitter・facebookなど各SNSとの連携や、またネイバージャパンが運営するコミュニティ「NAVER cafe」やソーシャルフォトサービス「pick」との連携だけでなく、オフィシャルファンクラブと連携しファンクラブ会員限定コンテンツやグッズの購入や各種特典・サービスの利用も可能になるようです。アーティストの世界観・方針に合わせて柔軟にカスタマイズができ、月額課金モデルの導入やアプリ内広告掲載などオプションもあるようです。詳細はこちらのプレスリリースをご覧下さい。

 

どちらもオウンドメディアとしてはアプリであることで、アクセスしやすく最新情報もプッシュ通知から見落とすことが少なくなります。さらにビジュアルやデザイン、操作性の高いUI(ユーザーインターフェース)に優れたアプリを提供する事でアーティストへのイメージの向上にもつながり、他サイト、ソーシャルメディアへのハブとしての役割も果たしています。そしてオウンドメディアをベースとしながら、サービスの派生や拡張を行っています。オウンドメディアとしてリッチな体験ができるのは素晴らしいのですが、アーティストのブランディングを考えた時にまた別の活用方法があるのではないかと思います。ブランディングという目的で考えた場合、2つのサービスは以下の点を改めて考える必要があります。

 

・Single・Albumアプリは単価が高く、各作品の楽曲が全て収録されている訳ではない。

・アプリのファンクラブとの連携は、ファンクラブに入っているユーザーだけが利用可能。

 

上記のサービスを購入・利用する方たちはすでにコアファンです。興味を持ったアーティストの情報を継続的に手に入れるためにオウンドメディアとしてのアプリをダウンロードする潜在的なファン。同じ作品でも違う体験・特典を求めてアプリを購入する、ファンクラブの特典・機能を統合した利便性を求めてアプリを利用するコアファン。両者の間には大きな溝があり、コアファンほど熱心ではないファンを如何にコアファンへ変えるのか、そのステップを踏む必要があるのです。

 

 

ファンクラブ特典を振り返ってみる

 

ここでコアファンを対象にしたファンクラブのサービス・特典にはどんなものがあるか振り返ってみます。

 

●一般的なファンクラブの内容

入会費1,000円、年会費3,000円

シリアルンンバー入りの会員証、年4回などの会報(紙媒体:冊子など)の発行

ライブのファンクラブ優先予約

ファンクラブ限定グッズの購入

ファンクラブイベントの参加(ファンクラブ限定ライブ、ファンクラブ旅行)

ミュージックビデオなどのエキストラ参加

音楽番組の観覧招待

ファンクラブ会員限定サイト、限定コンテンツやコミュニティの利用

 

さらに会報の内容を掘り下げてみると以下のようなコンテンツがあります。

 

会報限定の撮り下ろし写真(グラビア)

各作品やライブツアーなどのインタビュー

直筆のメッセージ

ライブやイベントの写真

ライブやイベントのレポート

楽屋などの様子

レコーディングやミュージックビデオ・CM撮影風景(いわゆるメイキング)

限定グッズのプレゼント(ファンクラブ限定グッズ販売とは別のもの)

テーマを決めた企画ページ(ロケ、対談、Q&A、チャンレジ企画などなど)

ファンのメッセージ・写真・イラスト紹介

 

ファンクラブに入会するファンの一番の目的はライブの優先予約権だと思いますが、会報に収録されているコンテンツもコアファンにしてみれば魅力的なコンテンツが溢れていると思います。一方ファンクラブ会員限定サイトはどうかというと壁紙のダウンロードやアーティストの動画コメントといった内容が多く、リッチコンテンツというとAKB OFFICIALNETなどもありますがデジタルコンテンツはあまり充実していないように感じます。

 

ファンクラブというクローズドなコミュニティ限定のサービスなので一般には告知していないものもあるかと思います。もしこんなのあるよ、といったものがあれば教えて下さい。

 

 

アーティストアプリをコアファン育成に活用する!

 

アーティストを熱心に応援してもらえるコアファンに向けたものだけあって、ファンクラブのコンテンツは非常に充実しています。冒頭に述べたブランディングはこのようなコンテンツを体験したいと思ってもらう=コアファンになってもらうためにどうするべきか?ということなのですが、その導線も様々だと思います。試しにアーティストの楽曲を聴いてみて興味を持った、友達からのシェアや口コミ、色々なメディアで情報を集めてみたりする、楽曲だけでなくどんな人なのか何となく理解する、イベントやライブで観てみたいと思うようになる、実際に生で観て聴いて体験して好きになる、自らアーティストの情報を発信するようになる、持続的にアーティストを応援してくれるロングエンゲージメントにつながる。これはほんの一例ですがこのような好意形成のプロセスがあり、様々なフレームワークもありますね。ただファンの方が一番求めるものはライブなどの生で得られる体験と、普段は見ることができない・知ることができないアーティストの裏側やプライベートな部分だと思います。現在はブログだけでなくtwitter、facebookなどのソーシャルメディアでアーティスト自身が活動の裏側やプライベートな情報を発信する事が増えてきました。そしてアーティストとファンが直接つながることでより身近に感じ好意を持ってもらいやすくなりました。

 

またファンクラブで得られるコンテンツ・サービスはそこだけの限定的なものなので、同じ活動の裏側、プラベートな情報だとしても深さと価値が違います。ただ価値の高いコンテンツが揃っていてもファンクラブのコンテンツ・特典は基本的に更新頻度が遅くインタラクティブ性に欠ける部分もあります。そしてファンクラブサイトのコンテンツは充実している状況ではないです。

 

潜在的なファン(ちょっと興味を持ってくれた方)には、情報のハブとなるオウンドメディアとしてのアーティストアプリは良いと思います。そしてコアファンには更新が遅くとも内容が充実したコンテンツを届けるのも良いと思います。ただしいきなり熱心なコアファンになってもらえる事は少ないですし、ファンをコアファンへと導くにはアーティストの裏側・プラベートな部分を知りたいというファンのニーズを段階的に高めていく事が必要でしょう。ブランディングを考える上で様々な手法があるとは思いますが、今後も大きな普及率が見込まれるスマートフォン、リッチな体験を提供できるアプリも活用すべきです。そしてここまで述べてきましたように活用の仕方を考えるべきなのです。

 

 

アプリによるブランディングと新たなビジネスモデルの構築

 

それではどう活用すべきなのか?裏側・プラベートな部分をみたいというニーズをうまく満たすことでロイヤリティを上げ、コアファンになってもらう。それはもっともなのですが、やはり大事なのはアーティストの魅力をちゃんと伝えていくことだと思います。冒頭で述べたように魅力を伝えていく事で、どんなアーティストだと思ってもらいたいのか、これからどんなアーティストになっていきたいのかを考えた上で、ニーズを満たす最適なコンテンツをスピード感を持って提供していく。これがアーティストアプリをブランディングに活用する上で重要なことだと思います。そしてこの活用方法は新たなビジネスモデルを構築できます。その構想を以下に書いてみます。

 

それはオウンドメディアとしてのアーティストアプリをベースにした上で、有料でコンテンツを楽しめる、いわゆるフリーミアムモデルのサービスになります。有料コンテンツは毎月更新される、インタラクティブである、ユーザーにとって参加しやすい仕組みを持つ、自分ごと化を促す、といった点を重点に置きます。ジャストアイディアなのでもっと深めていきたいと思いますが、大きく“レギュラー”と“イベント”の2つが良いかなと考えています。

 

●レギュラー

レギュラーは毎回更新されるコンテンツです。例えば写真ならお蔵入りになっている写真を公開します。ジャケット写真、アーティスト写真、ライブ写真、雑誌等グラビア用の撮り下ろし写真などがありますが、これらには掲載候補に上がりながらも使われなかった写真がたくさんあります。これらを可能な範囲で解放します。あとは連載コーナー。これはアーティストの新たな一面を発見してもらったり、内面を掘り下げアーティストをもっと知ってもらう、親近感を持ってもらうためのコンテンツです。写真など入れつつ読み物として毎月連載。テーマに沿った内容で例えば、インタビュー、対談、ファンのお悩み相談、アーティストのハマっているもの・趣味、可能ならイラストや小説など音楽以外のクリエイティブな特技、ロケによるレポート(興味のあるものを学びに行く・体験、思い出の場所・お気に入りの場所を訪れるなど)、オススメの○○紹介。などなど連載コーナーとして毎月更新して行きます。これらは一例ですがアーティストの好み・ライフスタイルなどから魅力を伝えていく企画は他にも色々あると思います。あと連載コーナーとしてはスタッフからの目線でアーティストについて伝えるコーナーもおもしろいかと思います。中には一芸に秀でていたり非常にキャラの濃いスタッフもいたりします。そこにフォーカスしたりアーティストといっしょに絡んだ企画も、キラーコンテンツになるかもしれないです。

 

●イベント

こちらは事前に告知をしながらも不定期かつ期間限定で提供されるコンテンツです。そしてユーザーを巻き込む参加型のものになります。現在は動画だとシングル・アルバムのリリースタイミングでのコメント、インタビュー、MV撮影等のメイキング、ライブのUstream等での配信などがありますが、これらとは違う視点のものになります。メイキングは別としてもこれらの動画はPR要素が強いですね。そうではなくもっとプライベート要素が強くユーザーに対してスペシャルなものです。例えばライブの前と後でアプリユーザーだけに向けたコメントを楽屋などで生配信します。ライブに臨むまたは終わったあとの心境をリアルタイムでユーザーだけが視聴できる仕組みです。ライブに参加するまたUstream等で視聴するのとは違うここだけのスペシャルな体験を得られます。人数に制限はありますがGoogle+のハングアウトのビデオチャットのようにコミュニケーションをとれるのもおもしろいかもしれません。アーティストによって様々かもしれませんが、ライブのMCのようにファンとコミュニケーションすると考えればそんなにハードルの高いことではないかと思います。他には現在制作中のいくつかのMIX音源の試聴などどうでしょうか。音はまだ荒くても新曲をいち早く試聴でき、次にシングルでリリースして欲しい曲をユーザーに投票で選んでもらいます。アプリなので音源をコピーされる心配はありませんし、ユーザーに投票という形で次のリリース楽曲を選んでもらうことで自分ごと化を促していきます。他にはジャケット写真のデザイン・イラスト、ツアーのロゴなどを募集するコンテストを行い、採用者以外の応募者の名前もクレジットに反映したりなど。

 

他にも色々考えられると思いますが、もっとアーティストの事を知りたいと思うファンのニーズに応え、このサービスだけでしか知ることのできないアーティストの魅力、コンテンツを充実させる事が重要です。そして毎月更新されるレギュラーコンテンツと期間限定のイベントコンテンツの2軸でブランディングと持続的な収益を得ることが狙いです。価格はSingle・Albumアプリのような落とし切りだけど高額なものではなく、100〜200円までの月額課金制。ファンクラブ会員はさらに割引きがあってもいいと思います。短期的な利益追求よりも長くファンとつながり、熱量を高めていくためにこの価格帯で設定します。CDの特典を変えて同じタイトルを複数枚買わせる手法は以前からありますが、短期的な利益追求ばかりしているとファン離れにつながる危険性があります。音楽業界は年々縮小しているのでそうなるのは仕方がないとはいえ、新たに持続的なビジネスモデルを構築して行くことも必要です。どうすれば長くファンに愛されるようになるのかブランディングと共にこのようなビジネスモデルを構想してみました。

 

あと一番最初にメジャーアーティスト向きと書いたのは、初期費用とアーティストによってはその回収に時間がかかるもしれないからです。なのである程度のファン数を抱えているアーティストには特に有効なサービスだと思います。簡単な構想でしたがいかがでしょうか?ご感想などありましたらコメントを頂けると嬉しいです。

 

また変化のスピードが早い現在は音楽業界も多くの課題を抱えています。引き続き課題解決の考察をしていきたいと思います。

 

itomasahiro

1980年生まれ。レコード会社にて営業・宣伝を担当。 縮小し続ける音楽業界と情報化社会の現在、変化してゆくコミュニケーションとライフスタイルから新たな音楽ビジネスを模索しています。

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